「バラバラ殺人」を犯した超エリート官僚が、「国民から英雄視された」意外な理由

日本で初めての「バラバラ殺人」の全貌
穂積 昭雪 プロフィール

正力は突然の相談に驚いたが、相手が山田であることを思い出すと妙に納得してしまったという。

実は正力は10年ほど前、大学時代の山田が「大学で靴を盗んだ同級生が渋谷署に捕まっている。なんとか助けてやれないか」と相談に来ていたことを思い出し「今回も正義感から仲間を助けようとしているのか」と思ったが、靴泥棒と違いバラバラ殺人とは穏やかではない。

だが、正力はしばらくして山田の行動に違和感を持つようになった。

『アサヒグラフ』 1955年3月16日号より
 

まず、6月8日の時点で新潟のバラバラ死体が鈴木弁蔵であることは一部の警察官しか把握できていない、さらに渡辺という男が犯人であることも当然ながら知る由もない。

さらに「満州へ逃げる」などと逃亡計画を現役の警察官僚である自分に明かすなど、いったいどういう心づもりなのだろうか。

「これは怪しい」と睨んだ正力は渡辺にこう伝えた。

「喧嘩の末の殺人なら自首すれば多少刑は軽くなる。だが、いったいどういう喧嘩だったんだ」

すると渡辺の言葉を遮り山田は「正力さん、鈴弁という男は国家を毒する悪党ですよ。殺されて当然だ」と渡辺以上に鈴弁を罵った。ますます「怪しい」と睨んだ正力は「鈴弁の悪評はもちろん知っている。しかし殺して良い理由にはならん。すぐに自首すれば刑はかなり軽減されるはずだ」と渡辺の身柄を責任もって引き取り、山田を「ご協力ごくろう」と帰すことにした。

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