イギリスの製薬会社であるラインファーマが12月22日、経口中絶薬の製造販売について厚生労働省に承認申請した。承認されれば国内で初めての「飲む中絶薬」となることが注目されているが、日本産婦人科医会などがその国内における価格設定について言及した内容が波紋を呼んでいる。金額が他国に比べて、あまりに高額だからだ。

長年、日本のリプロダクティブ・ヘルスの問題について取り組んできた中絶問題研究家の塚原久美さんが、本件について解説する。

塚原久美(つかはら くみ) プロフィール
中絶問題研究家、中絶ケアカウンセラー、大学非常勤講師。国際基督教大卒業後、フリー翻訳者/ライターとして女性問題に関する出版等に従事。出産後、中絶問題の学際研究を始め2009年に金沢大学大学院で博士号(学術)、後に心理学修士号と公認心理師、臨床心理士資格も取得。『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ-フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房、2014年)は、出版翌年の山川菊栄記念婦人問題研究奨励金とジェンダー法学会西尾学術奨励賞をダブル受賞。2020年9月RHRリテラシー研究所を立ち上げ、2021年3月内閣府研修講師も務めた。2021年12月にアジュマ・ブックスより『中絶がわかる本』を翻訳出版(解説:福田和子、監修:北原みのり)。

※以下、塚原さんによる寄稿。

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平均卸価格700円台の薬を10万円ほどで処方するのか

12月22日、ラインファーマ株式会社が、日本初となる「飲む中絶薬」の承認申請を行いました。報道によれば、人工妊娠中絶は自由診療扱いであることを理由に、申請書には薬価が書き込まれていないようです。

日本では、避妊も中絶も「病気ではない」として保険診療の対象にはされていません。保険診療であれば一律の料金が決められるのですが、保険のきかない避妊、緊急避妊、中絶は医師が好きに価格設定できます。そのため、同じ避妊薬でもクリニックごとにばらばらの価格がつけられているし、人工妊娠中絶手術の料金もまちまちです。なかには法外な値段をつけているところもあります。

経口中絶薬が導入されても、中絶料金はこれまで通り医師の言い値になるわけです。日本で合法的中絶手術を行う「母体保護法指定医師」の職業団体である日本産婦人科医会は、経口中絶薬が承認されても、従来通り中絶を行えるのは指定医師のみで、当面は念のために入院施設のあるところでのみ扱えるようにすべきだと主張し、価格についても「従来の手術と同等」にすると発表しています。また、東京大学の産婦人科の大須賀穣教授も「病院経営の観点から」従来と同等の値段にすべきだと言っています(2021年4月21日付の毎日新聞の記事より)。

日本の中絶手術の料金は妊娠初期でも10万円程度かかります。イギリスやフランスなどの先進国では健康保険がきいて無料のところも多く、日本同様に保険のきかない唯一のOECD諸国であるオーストリアは4万円弱〜であるのに比べてかなり割高です。WHOによると、経口中絶薬の世界の平均卸価格は700円台。それを10万円程度で処方することを示唆する日本産婦人科医会の発表に対して反対の声があがることは当然と言えます。