2021.12.28
# 本 # 海外 # エンタメ

小説は歴史・生命・自分を更新し続ける!2021年に読むべき24冊

おうち時間に読みたいオススメ本・後編

今年も恒例企画「年末ジャンボお勧めブックガイド」の季節となりました! ブックリストの続きをご覧下さい。

【前編はこちら】→『パンデミックの時代に「詩」が力を発揮!2021年必読の24冊』

歴史の再創造

今年は、ある国や地域の歴史や文化史を軸に物語を展開し、その裏側や知られざる面を描くことで、”正史”を書き換えるような傑作が多かったと思います。

13 佐藤究『テスカトリポカ』KADOKAWA

 

今年の山本周五郎賞と、直木賞のダブル受賞作です。

古代王国アステカの神話を下絵に、無戸籍児童を狙う「心臓移植ビジネス」を物語の中核に据えた恐るべきノワール小説。その背景にあるのは、海をまたいで広がる「麻薬資本主義(ドラッグ・キャピタリズム)」である。

物語は一九九〇年代のメキシコ北東部の街から、ジャカルタ、川崎へと舞台を移し、麻薬密売の大物、野望を抱く闇医者、天涯孤独の身となった怪力の少年などを登場させ、裏社会の闇をオムニバス形式で描きだす。

麻薬やアステカ王国などの舞台設定から、チリのロベルト・ボラーニョの遺作『2666』(野谷文昭ほか/訳 白水社)を彷彿させますが、ボラーニョが殺戮とレイプを、神のごとくアパテイア(無感覚)で描き、読者を慄然とさせたのに対し、『テスカトリポカ』の文章には冷たい熱があると思います。それは、語り手が作中人物と一体となって心情を描出する共時的話法を導入していることに由来するのではないでしょうか。

14 川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』河出書房新社

これが小説デビュー作とは仰天の、精緻にして極上のモデル小説です。

タイトルを見ただけで、ウラジミール・ナボコフ『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』が想起されます。これはセバスチャン・ナイトという作家の伝記の体裁をとったメタフィクションなのですが、川本直もこの構想に倣った部分があります(詳しくはご自分の目で確かめてください!)。ジュリアン・バトラーはモダニズム期に生まれ、一九七〇年代まで活躍した美しく革新的な同性愛の作家。本書は、回想録という形で展開する擬態翻訳書です。

アメリカにはThe Great American Novel(GAN=偉大なるアメリカ小説)という概念があるが、ジュリアンの宿敵となる作家はこの「大文字のアメリカ文学」を書くと嘯き、こてんぱんにされる。そう、ヘミングウェイ、フォークナー、フィッツジェラルドら異性愛白人男性を主流とする米国文学界を華麗に挑発するのが本書であり、表舞台に誘いだすのは、メイラー、カポーティ、バロウズ、本作の裏主役でもあるゴア・ヴィダルらクィアな作家たち。

また、本作を三重四重に副層化しているのが、創作における共作/共犯関係です。「作者」とは誰のことか? 川本直は第三の共謀者として一行ごとに巧緻な仕掛けを施し、幻の文学史を現前させます。小説のなかの小説とはこのこと。

15 柚木麻子『らんたん』小学館

本作も、日本近現代文学史への”審問”といえるでしょう。明治大正生まれの女性教育者や作家たちを、膨大な時代考証とともに描きだす圧巻の群像劇です。津田梅子、日本女子大学の創立を支援した広岡浅子、最初期の女性翻訳家・若松賤子、『赤毛のアン』を初訳した村岡花子、花子と腹心の友・柳原白蓮、平塚らいてう、フェミニストの山川菊栄……。

主役は、柚木の母校恵泉女学園を創立し、第二次大戦後は昭和天皇の免訴にも力を貸したと言われる河井道と、右腕として彼女を支え続けた一色ゆり。二人は固い「シスターフッド」の絆で結ばれ、ゆりは男性に求婚されると、道と三人で暮らすことを条件に出す。相手の男性は仰天しつつも、英国留学で考えが柔軟になっており、この条件を飲む。

アメリカの留学生活で河井道が学んだのは、キリスト教の他愛主義による「シェア」の精神や、「オナーコード」と呼ばれる名誉ある自律的行動でした。題名の「らんたん」はランターンのこと。戦争や弾圧下でも教育と平和の灯を消さずに継承しようと尽力した女性たちの祈りの表象でしょう。

※今年は驚異の小説デビュー作にして直木賞にノミネートされた、逢坂冬馬のアガサ・クリスティー賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)も大いに話題になりました。第二次世界大戦独ソ戦のロシア赤軍に実在した女性だけの狙撃隊をモデルに書かれた戦争歴史小説です。刷り部数は発売1か月で7万2千部。

関連記事