近年、ハル・ベリーがトランスジェンダーの男性の役を降りたり、『リリーのすべて』でトランスジェンダーの女性を演じたエディ・レッドメインが「トランスジェンダー女性の役を演じたことは間違いだった」と後悔を明かしたりなど、トランス役を「当事者ではない」シス俳優が演じると批判を受ける。

実際に日本でも『ミッドナイトスワン』も同様の批判を受けたし、反対に、今年公開された『片袖の魚』はトランスジェンダーの俳優が主演し大きな支持を得た。

ジェンダー平等や性別移行について日本よりずっと進んだデンマークで、トランス役にシス俳優を起用した監督がいる。その作品は監督のトランス女性である父親と監督の物語を映画化したものだ。

12月24日に公開される『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』は父親が性別移行する過程を娘の視点で描いた映画だ。監督・脚本を務めたのは本作が長編監督デビューのマルー・ライマン。トランス役にシス俳優を起用した理由や監督の個人的な経験まで、ライマン監督にざっくばらんに語ってもらった。

出典/ムービーエスパース・サロウ公式YouTube 
(c) 2019 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

トランス女性役にシス男性俳優を起用した理由とは?

――ミケル・ボー・フルスゴーの演技は素晴らしかったのですが、なぜトランス女性の役に当事者ではないシスジェンダーの男性俳優を起用したのですか?

マルー・ライマン監督(以下、ライマン監督): 誰もが“普通の家族”には男性、女性と子どもたちがいると思っています。そういったイメージを表現するために、ミケルが最適でした。それに最初、エマは父親を男性としてしか見ることができなかった。そういったエマの視点を表現するためにも、男性のカラダから自身の女性性を見出すことができるような身体性をもったミケルが役にぴったりとあったんです。

それでもずっとシス俳優の起用はポリティカリー・インコレクト、世の中にとって不適切なんじゃないか……と不安でした。絶対に批判されるだろうし、トランスジェンダーのコミュニティからは反発を受けるかもしれない。でもこの物語は私が経験したものだから、私は私の表現を信じようと思いました。

結局、上映会やプレス試写会に足を運ぶと観客は誰も怒っていなかったし、私がなぜミケルを起用したのか理解してくれたようでした。トランスコミュニティもこの映画を受け入れてくれたんです。ネットでは批判の声もありましたが、実際に劇場へ足を運んでくれた方から批判や反発は受けませんでした。

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――性別移行したあと、ミケル演じるトマスは名前もアウテーネとなり、女性のカラダになっていましたが、あれは特殊メイクなのですか?

ライマン監督: はい。CGではなく特殊メイクにしたのは理由があります。特殊メイクで女性のカラダをまとうことにより、ミケルに女性のカラダがどんなものでどんなふうに感じるかを経験してほしかったから。特殊メイク以前に、彼は自分の女性性を十分引き出し、女性としての素晴らしい演技をみせてくれましたが。

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