提供:JICA

世界には、自由に学んだり、働いたりすることが困難な女性がまだ大勢います。ジェンダー平等に向けた動きが加速する中、私たちにできることは何か。そのひとつの回答が、途上国の女性支援を目的としたジェンダーボンドです。投資によって世界を変える。日本初となる取り組みについて聞きました。

ジェンダー平等に向けて、世界的な機運が高まる一方で、開発途上国では女性の基本的人権すら守られていない状況が未だ根強く残っている。必要なのは、国と国が手を取り合って状況を変えていくこと。そのために生まれたのが国際協力機構債券「ジェンダーボンド」だ。発行元のJICA(独立行政法人国際協力機構)で理事を務める井本佐智子さんと、三菱UFJ銀行で執行役員を務める南里彩子さんに、投資によって切り開かれる女性が輝く未来について話を聞いた。

JICA 理事 井本佐智子さん
1993年からJICAで働き、南アジア部南アジア第三課長、インド事務所次長などを務め、現地でも活動を行う。広報部長を経て、2021年10月より現職。

三菱UFJ銀行 執行役員金融法人部長 南里彩子さん
1992年に入行。法人営業、人事部、広報部、支社長やコーポレート・コミュニケーション部長を経て、現職。

 ジェンダーボンドとは? 

日本初となる、開発途上国のジェンダー平等と女性のエンパワメントを目的とした国際協力機構債券。JICA(独立行政法人国際協力機構)が発行するもので、調達された資金は女性のエンパワメントのための事業に充当される。融資によって女性の起業をサポートするほか、防犯カメラや女性用トイレの設置といった公共事業にも活用。SDGsのゴール5「ジェンダー平等」達成に向けたESG投資として注目されている。2021年9月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券等が国内投資家向けに販売をした。

開発途上国の女性の現状を
投資を機に知ることが大切

井本 私たちJICAは、政府開発援助の実施機関として、開発途上国への国際協力を行っています。世界最大規模の二国間援助機関で、世界150以上の国と地域で事業を展開しています。

南里 そんなJICAさんがジェンダーボンドを発行したのは今年9月でしたね。

井本 はい、これまで社会課題を解決するためのソーシャルボンドは発行してきましたが、女性支援に目的を絞った債券はこれが初。日本でも初めての取り組みとなります。同じMUFGの三菱UFJモルガン・スタンレー証券さんに販売をしていただきましたが、すでに大きな手応えを感じていますね。

南里 私もジェンダーボンドがようやく日本でも発行されると知った時は、「素晴らしい!」と率直に感動しました。日本はジェンダーギャップ指数が世界156ヵ国中120位。自国のジェンダー平等のための課題も山積していますが、同時に世界のためのアクションも起こしていかないといけない。そのアクションこそがジェンダーボンドだと思います。

井本 同感です。“投資”は知ることのきっかけになるんです。ジェンダーボンドを通じて、日本の投資家に開発途上国の女性たちの状況を知ってもらいたい。例えば開発途上国では、女性が銀行から融資を受けるのは極めてハードルが高い。ひとりで縫製の仕事を始めた女性が、ミシンの台数を増やし、地域の女性たちを雇って事業を拡大したいと考えても、融資が受けられずビジネスを大きくできない。つまり、女性の力だけでは自立ができないのです。そこで活用されるのがジェンダーボンド。日本からの資金で彼女たちのチャレンジをサポートできます。

南里 井本さんはインド事務所次長を務めていたご経験もあって、世界のジェンダー問題をご自身の目でご覧になっている。だから、お話にも説得力を感じます。他にもどういった課題があるか教えていただけませんか?

学校に通えない女の子は
世界にまだ数多くいる

井本 日本に暮らしていては想像もできない状況がまだまだ多くあります。例えば、15歳未満で結婚をする女の子は世界で2億5000万人もいるんです。幼い年齢で結婚を強いられる女の子の多くは、学校で勉強を続けられないなど人生の選択肢が限られてしまいます。女の子ひとりで外出するのが危険だという理由から、通学ができないケースも多い。JICAではインドの地下鉄に女性専用車両を設置したり、改善に努めています。

南里 私も先日、アフガニスタンには、ひとりで電車に乗ったことがない女の子が大勢いるという話を耳にしました。

井本 “移動の自由”という、日本では当然のことが、安心してできない国がある。

南里 心が苦しくなる話です。ですが、そうした事実から目を背けず、ひとつひとつ知っていくことが、世の中に潜むバイアスに気づく力を養うと思います。

井本 そうなんです。例えば電力事業について考えたとき、そこにジェンダー問題があると考える人は少ないかもしれません。でも、つぶさに見ていくと気づくことがある。現場に女性の技術者はいるか? 少ないなら、技術を学べる学校に女性が通いづらい原因があるのではないか? 契約者の男女比はどうなっているか? そうした視点を持つには想像力が重要。想像力は、社会課題についてアンテナを張ることで鍛えられます。

ジェンダーボンドは
日本社会にも影響を与える

南里 投資を通してジェンダー問題に関心を持つ投資家が増えれば、日本の男女平等への理解ももっと進むはずですね。

井本 そうあって欲しいです。JICAでも女性管理職を増やしたり、性差によるバイアスをなくす努力を続けています。

南里 私たち三菱UFJ銀行でも、現在は管理職の18%が女性ですが、2030年までにさらに増やし、役員の30%を女性にする目標を掲げています。女性の活躍の重要性に共感するからこそ、MUFGとしてJICAさんのジェンダーボンドの販売をご支援させていただきました。

井本 つまり、意思表示ですね。大手機関投資家の住友生命でALM証券運用部長を務める児玉さんからも「開発途上国のジェンダー平等と女性のエンパワメントを推進する事業に貢献するジェンダーボンドの意義に賛同し、投資を決めました」とお話を頂戴しました。

南里 これからは企業も投資家も社会課題に対するメッセージを積極的に発信していかなければならない時代。行動を起こしていない企業は生き残れません。特にZ世代と呼ばれる若者たちは、そのあたりを敏感に感じ取っている。具体的な行動で示すことが求められています。

女性たちの持つ可能性で
世界はもっと幸福になる

井本 ジェンダーボンドでは、事業活動のレポートを投資家へフィードバックします。変化を感じていただけるのもメリットですし、レポートから得た情報や、ジェンダー問題への意識の変化がビジネスに役立つこともあると思います。

南里 フィードバックがあるのは嬉しいですね。自分のお金に正しく働いてもらって、事業が成功すれば資金も増えるわけで、関わった誰もがハッピーになれる仕組みだと思います。

井本 投資や債券というと難しく感じられるかもしれませんが、「お金を渡して応援する」という意味ではクラウドファンディングに近いのかもしれないですね。

南里 考え方は似ていますね。

井本 女性たちの才能に“投資”をすることは、世界を変えるきっかけになります。

南里 将来の有望なビジネスパートナーが生まれる可能性もありますよね。

井本 狭い世界に閉じ込められていた彼女たちを解放すること。当たり前の権利として、自由に生きてもらうこと。それにより、世界は必ず良い方向に向かっていく。そう信じて、開発途上国のジェンダー平等を支援したいと思っています。


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JICA


●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
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Illustration:Asami Hattori Text & Edit:Yuka Uchida