「金、金、金で、息がつまりそう」
不注意だったのは自分でもわかっていたが、言いようのない不安を抱えていた時に、「ガス代がもったいない」という話をされて、美枝の中で感情が一気に爆発した。
「またお金の話? 妹とは5分話していないの。無駄にしたガス代なんて、数円よね! いつもケチケチして、お金の話ばかり。小さい男ねっ」
売り言葉に買い言葉とはこのことで、普段穏やかな義行が、声を荒げて言い返してきた。
「数円だって、無駄は無駄だろう。それに、もしこれが油だったら火事になっていたかもしれないじゃないか。火事になったら、ここはマンションなんだから、周りにも迷惑がかかるんだよ! 自分の非を認めろよ。なに逆ギレしているんだっ」
「ガス代を心配する前に、お義父さんは、大丈夫なの? と聞くのが心ある人間なんじゃないの? もう本当にあなたと生活していると、金、金、金で、息がつまりそう」
「ここの家賃も光熱費も払っているのは、こっちなんだよ。嫌なら出て行けよ」

この義行の言葉が、美枝の怒りをさらに増幅させた。
「はいはいはいっ、出て行きますよ」
そう捨て台詞を吐き、美枝は、コートを着ると、お財布と携帯を小さなバッグに入れて、家を飛び出した。
そして、電車で1時間の実家に帰った。