一方、昔ながらの職人の世界において、イタリアで修業したとはいえ、ぽっと出に過ぎない優一さんが開業するには、さまざまな壁があったという。
「材料の革を買い付けに、浅草に行ったんですけど、門前払いされました。
お店に行っても革を売ってくれなかったり、売ってくれても、どう考えてもこんなのゴミじゃんっていう粗悪品を、高値で売りつけられたり……。何軒回ってもそういう対応ばかりでした」

「とはいえ、革が手に入らなければ、靴職人を開業できません。『もし全部ダメだったら、イタリアに帰ろう』とまで思いつめて、最後に浅草で一番でかい革屋さんを訪問しました。もちろん、でかいお店だから絶対売ってくれないだろうなと思ってたんですが、ダメ元で行ってみたんです。
中に入ると、そこの5代目に当たる人が偶然お店にいたんです。僕と同い年で、革屋の修行中だったんですよ」
「その人に『何やってるんですか』って言われて。『靴職人やってます』『ええ、個人で?』みたいな話になって。それをきっかけに、その人のお母様だったり、お店の方たちに可愛がっていただけるようになって、ようやく革を買えることになりました」