2021.12.28

環境にやさしい次世代肥料で砂漠で農業を可能に! 有機合成技術で食糧危機を回避する

SDGsのための科学技術イノベーション

環境・エネルギー問題や食糧問題、貧困、教育等、世界が抱えるさまざまな問題を解決し、全ての人にとってより良い持続可能な社会を実現するための世界共通の目標、SDGs。今や日常的に目にするキーワードになりました。(STI for SDGs)

リケラボでもSDGsにつながる研究成果を積極的に紹介していますが、今回は有機合成の技術で、飢餓をなくすことに挑んでいる事例を紹介します!

農耕に適さない不毛の大地を化学の力で豊かに変える

「SDGs目標2 飢餓をゼロに」

全世界の陸地の67%は農耕に適さない土地、そのうちの半分がアルカリ性不良土壌で占められています。その一方で人口は増え続け、2050年には100億人にも達し、深刻な食糧危機に陥ることが懸念されています。

では、もしこの不良土壌で作物を育てることができたなら? という問題に挑んだのが、徳島大学の難波康祐先生の研究グループです。難波先生は専門である有機合成技術を使い、イネ科の植物が分泌するムギネ酸という物質を利用して、アルカリ性不良土壌でも作物が育つ肥料の開発に成功しました。画期的な肥料なのに、費用も安く作れて、しかも環境にも優しいそうです。

難波先生に、研究の道のりや苦労したこと、そして今後どんな展望が開けているのかをお伺いしました!

難波康祐先生

複雑な生物活性天然有機化合物を試験管内で作る

私の専門は有機合成化学で、その中でも全合成、天然の生物が作る複雑な有機化合物を試験管やフラスコの中で人工的に作ってみせることが仕事です。これまでに作った化合物の中には医薬品に活用されているものもありますが、私たちが取り組んでいる全合成研究は、何かの目的を果たすためというよりも、もっと純粋に、今までにない合成法を編み出して複雑で難しい天然の化合物を人工的につくること自体を追求しています。今まで生物にしか作れなかった極めて複雑な化合物をフラスコで創れたら、合成化学の限界を突破したことになり、科学が進歩したと言えるからです。

ただ、実用的かどうかというのはまた別の話で、全合成を達成したからといってすぐに世の中や人々の暮らしが良くなるということはあまりない。そういう意味では、自己満足の世界に近いと思うこともあります。

そういう学問をずっと追求してきて、分子レベルでのモノづくりの面白さを存分に味わってきましたが、この技術を何か世の中の役に立つことに活かせないかと思い、取り組んだのが今回発表した、ムギネ酸をもとに開発した次世代肥料の研究です。不毛の土地でも植物の成長を可能にすることで、人類を飢餓の危機から救う希望となるはずです。

高価すぎるムギネ酸「安くつくれないか?」

植物の成長には鉄が必要で、通常は根から水に溶けている鉄を取り込みます。しかしアルカリ性不良土壌に含まれている鉄は水に溶けない水酸化鉄、いわゆる赤錆のようなものです。水に溶けないので植物は当然取り込めず、鉄欠乏症で枯れてしまいます。海外ではその対応策として、水酸化鉄を溶かす農業用鉄キレート剤を開発し、農耕を成立させています。しかし現状の鉄キレート剤は、分解できずに土壌に残り続けるという課題があります。

一方、植物の中にはアルカリ性土壌でも鉄を取り込めるものがあります。イネ科の植物で、特に大麦はアルカリ土壌に強い植物です。根からムギネ酸という物質を分泌して土壌中の鉄と反応し鉄錯体を形成します。鉄錯体は鉄イオンを溶かすので、それで鉄を取り込むことができるんです。

ところが、同じイネ科でもコメやトウモロコシはうまく育ちません。ムギネ酸の分泌が十分ではないからです。それならば、ムギネ酸鉄錯体を人工的に作り、サプリメントのように植物に与えてやればアルカリ性不良土壌でも育つのではないか、というのが研究の出発点でした。大麦だけではなく、イネやトウモロコシといった主食作物がどこでも育つようになれば、食糧増産にとってインパクトが大きくなります。

この研究のきっかけになったのが、私が一時期所属していたサントリー生物有機科学研究所の村田桂子博士です。博士はムギネ酸鉄錯体を取り込むトランスポーターを研究されていましたが、悩みの一つはムギネ酸が1mgで10万円と非常に高価なこと。過去にもムギネ酸の合成を手掛けた研究者はいますが、その価格は未だ高価であり、コストダウンに挑戦する研究もありませんでした。

「安く作れないか」という話を聞き、私の合成化学者魂に火が付いたんです。まずやってみようというのが私の研究精神なので、新しい合成法を開発すればいい、さらには原料が高ければ安く作れる方法を探せばいいではないか、と。本当に必要な化合物を必要な量だけ合成する、それが有機合成の専門家である私のやるべきことでした。

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