住民が何を望んでいたか

そうした中で上がってきた課題の一つが、「食やエンターテインメントを楽しむ場がない」というものだった。都心まで38キロの立地は、通勤圏内ではあるが、週末に家族を連れて行くには億劫だという。家族で外食を楽しめる場がなかったのだ。また、「食料廃棄を何とかしたい」という声もあった。ユーカリが丘を象徴するひとつにもなっている500もの貸農園では、食べきれないほどの野菜が採れる。しかし、市場に流通させるだけの量には足らず、近所に配るくらいで、余った食材が廃棄されていた。この程度の問題は、どこの街にもあることと言えるだろう。けれども住民たちのために「住みやすい街づくり」を本気で進めている山万は、この程度の問題も放置しなかった。

山万株式会社が運営する直売所は、タウン内の道の駅的な存在だが、時に採れすぎた野菜が余ってしまうこともあった。
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そんな頃、東京・新橋の飲食店経営とプロデュース業を営む「ミナデイン」代表の大久保伸隆氏から、ユーカリが丘でぜひ店をやりたいとの申し出があった。大久保氏は、『しなやかな日本列島の作り方』(藻谷浩介著 新潮社刊)という本を読み、山万の街づくりに感銘した。早速ユーカリが丘を見に行った大久保氏は、街の案内をしてくれた山万の役員と意気投合。周辺の農家や市民農園と連携し、輸送コストをかけずに「持参」してもらう、「地産地消」ならぬ「持参地消」のアイディアとともに、住民のだれもが食を楽しめるレストランを作りたい、そしてできれば食料廃棄問題も解決したいと、申し出た。

「ミナデイン」代表 大久保伸隆氏。前職では、居酒屋「塚田農場」で客のリピート率6割を実現すると同時に、アルバイトが辞めない人事戦略を確立、30歳で一部上場会社の副社長へと上り詰めた。写真提供 ミナデイン

こうして、3年前の2018年12月、昼はファミリーレストラン、夜は居酒屋の「里山transit」が誕生した。