2021.12.19
# 中国
中国漁船が押し寄せる「あの海」を、「東シナ海」と呼びたがらない政府への違和感
公式文書では、意図的に避けている尖閣諸島がある東シナ海は、九州と中国大陸に挟まれた豊かな海だ。日本では「東シナ海」という呼称が100年以上使われてきたが、日本政府は中国に遠慮し、その呼び名を条約で「封印」しているという。新刊『東シナ海』から、その背景事情について紹介しよう。
「東シナ海」と呼べない海
東シナ海は太平洋の西側にある縁海で、日本政府によれば「おおよそ、北限は済州島と長江河口及び同島と我が国の五島列島を結んだ線、東限は九州西端から南西諸島を経た線、南限は台湾海峡の北限、西限は中国大陸で囲まれる海域」〔平成二十八年四月八日受領答弁第二二四号「答弁書」〕とされている。
中学校の社会科で習った言葉で表すと、九州、奄美や沖縄といった南西諸島、台湾、中国本土、朝鮮半島のそれぞれで囲まれ、かつ日本海と対馬海峡でつながり、南シナ海とは台湾海峡でつながっている海、とでもいえようか。ちなみに北部では、中国本土と朝鮮半島にすっぽり囲まれた黄海と接している。

この東シナ海の約8割は、水深200メートル未満の浅い海で、アジやサバなどの黒潮に沿って回遊する浮魚類の絶好の産卵場・住処となっている。多獲性魚種(一般に大衆魚)だけでなく、マグロやタチウオなどの高級魚も獲れ、全面が優良漁場なのだ。
東シナ海については今日、こうした自然地理学的特徴ではなく、地政学的特徴に関心が集まっている。大陸国家から海洋国家への脱皮を図る中国の影響力拡大が大きい。
真新しい航空母艦を核とした中国の艦隊が、無敵を誇ったアメリカの艦隊とにらみ合う様子は、100年をかけた巨龍の復活劇を見ているような印象を与える。