1999年から我々が見てきたものは、現実か、それとも仮想世界(マトリックス)か――。
今までのシリーズを観てきた人からはそのようにも感じさせられる『マトリックス』シリーズ最新作『マトリックス レザレクションズ』が12月17日より公開となる。

出典/ワーナーブラザーズ公式チャンネル 

1999年に公開した『マトリックス』はワイヤーアクションを世に知らしめたアクション界の記念碑的作品でもある。仲間との闘い、キアヌ・リーブス演じる「救世主」ネオと、キャリー=アン・モス演じるトリニティーとの愛……見事なエンターテインメントとして世界大ヒット、2003年9月には『マトリックス リローデット』、同年11月には『マトリックス レボリューションズ』も公開された。シリーズ全体を通じて「現実とは何か」を観る側につきつける哲学的アプローチも、多くの人の心をとらえる要因のひとつだろう。

1999年に公開となり、衝撃をもたらした第1作 (C) 1999, 2003 Village Roadshow Films (BVI) Limited. (C) 1999, 2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

そんな作品を「自分の人生のようなもの」と語るのが、ネオの吹き替えをずっと担当する小山力也さんだ。小山さんは俳優としてデビューしたのち、「ER救急救命室」のダグラス・ロス(ジョージ・クルーニー)、「24」のジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)など、多くの名優の吹き替えをつとめてきた。アニメでは「名探偵コナン」の毛利小五郎役をバトンタッチしたこともニュースになっている。1999年からネオを演じ続けてきた小山さんに『マトリックス』と最新作について伺った。その前編では、そもそもネオの吹き替えを依頼された「縁」について語っていただく。

小山力也(こやま・りきや)
1988年俳優座に入団、1998年に『ER救急救命室』のダグ・ロス医師(ジョージ・クルーニーの吹き替えではじめて声優として活動を始める。以降、俳優としての活動と並行して、声優として活躍。吹き替えでは『24-TWENTY FOUR-』のジャック・バウアーとキーファー・サザーランド)、『マトリックス』シリーズのネオ(キアヌ・リーブス)、アニメでは『名探偵コナン』の毛利小五郎、『NARUTO』のヤマト〈テンゾウ〉、『バキ』の烈海王、『うしおととら』のとらなど多くの人気作にて声優をつとめている。2011年には第5回声優アワード富山敬賞を受賞。
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「血の通った日本語を話さなくては」という思い

――小山力也さんの声優としてのキャリアは、1996年にNHK BSで放送が始まった海外ドラマ『ER緊急救命室』からスタートしている。ドラマの配給元は、『マトリックス』と同じワーナー・ブラザース。小山さんと『マトリックス』の縁は、すでに『ER』から始まっていたのだ。

1994から2009年まで全米で放送され、大人気を博したドラマシリーズ『ER救急救命室』。日本では96年から放送され、絶大な支持を得た。ジョージ・クルーニーの出世作だ(c) 2021 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

「『ER緊急救命室』で、ジョージ・クルーニーの吹き替えをやらないか?」というオファーをいただいた時、僕はまだ声優経験のない、劇団俳優座のいち俳優でした。『ER』は医師と看護師の成長物語ですから、NHKさんのほうで「いっそ耳馴染みのない声を集めたらどうだろう?」ということになり、いろいろな劇団の人間に声をかけたのだそうです。集められたなかで、まったく声優経験がなかったのは僕だけ(笑)。一番の新人も僕なら、一番下手くそなのも僕でした。

出演者は総勢で、40人以上いたでしょうか。ちょっとした役やセリフでも、ダブリなしで演じる人がちゃんといました。BSの目玉になる海外ドラマだけに、皆で鍛えて、育てようとしたのだと思います。とはいえ、さすがにNHKさんも、新人ばかりではまずい、ちゃんとしたリーダーが必要だと考えたのでしょう。ベントン医師役として、大塚明夫さんがキャスティングされていました。

明夫さんは年齢も僕らより少し上ですし、何より声優としてのキャリアがありましたからね。彼にクラスをまとめる学級委員になってもらって、皆一丸となってドラマを盛り上げていこうという感じでした。

『ER』のディレクターから「そのうち日本語のセリフも機械でできるようになる時代が来る。ハリウッドスターの声を解析して、日本語に組み替えることもできるようになるだろう。そうなったら吹き替えの声優はいらなくなるよ?」と言われたことは、今でも忘れられません。おそらく僕らを鼓舞する意味で言って下さったのでしょう。その言葉を聞いて、「だからこそ血の通った日本語を話さなくてはいけない」と、より強く思うようになりました。

ジョージ・クルーニーは『ER緊急救命室』のオーディションに落ちたら俳優をやめようと思っていたとも報じられている。しかしこの役で一気に花開いた (c) 2021 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.