宇宙を観る新たな「目」 マルチメッセンジャー天文学とは何か

新しい天文学が捉えた宇宙の姿

アメリカ科学アカデミーが2021年に発表した「天文学における、今後10年の3つの重要テーマ」のひとつが「マルチメッセンジャー天文学」です。

天文観測にこれまで用いられてきた可視光や赤外線、電波、X線という「電磁波観測」に、「重力波」や「ニュートリノ」など、人類が新たに手に入れた宇宙から得らのシグナルを組み合わせ、宇宙物理学の謎に迫るこの新しい天文学。

その最新研究を気鋭の研究者がていねいに解説した『マルチメッセンジャー天文学が捉えた新しい宇宙の姿』。この本の「前書き」を刊行とともに公開いたします。

まえがき

天文学は今大きな変革期を迎えています。古くから人類は、宇宙からやってくる様々なシグナルを観測することで、宇宙の歴史や成り立ちを理解してきました。

20世紀まで、このシグナルとして主に使われていたのは「光」、すなわち「電磁波」でした。人間の目で見る光を使った観測を皮切りに、20世紀には赤外線、電波、X線といった様々な波長の電磁波を使った天文学が花開きました。

さらに近年、私たちは宇宙からやってくる「重力波」や「ニュートリノ」など、光以外のシグナルも駆使して宇宙を研究できるようになっています。これら全てのシグナルを組み合わせることで、いままで解明できなかった宇宙の謎に迫ることができるのです。

このように、宇宙からやってくるあらゆるシグナルを総動員した新しい天文学は、「シグナルを伝えるもの・伝達者」という意味の「メッセンジャー」という言葉を使って、「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれています。

例えば、2015年には重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)によって、宇宙からやってきた「重力波」が史上初めて捉えられました。

さらに、2017年には重力波を放った天体が、光を捉える通常の望遠鏡でも観測されました。

2011年からは南極に設置されたIceCube(アイスキューブ) 観測所が宇宙からやってくる「ニュートリノ」を観測しており、その後、2017年にはニュートリノを放った天体の候補が通常の望遠鏡でも捉えられました。

【写真】すばる望遠鏡国立天文台の大型赤外線光学望遠鏡「すばる」 photo by NAOJ

このように、まさにいま人類は宇宙を観測する全く新しい手段を手にしたのです。そして、それらのシグナルを全て駆使することで、宇宙で何が起きているのかを探ることができるようになったのです!

私にとってのマルチメッセンジャー天文学は、驚きと戸惑いとともに静かに始まりました。

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