生きることに忠実な野生動物の姿が教えてくれるもの

天海さんが特に印象的だったシーンがある。翼が折れた白鳥は、その年の冬に仲間やつがいと再会を果たし、一緒に冬を越した。春になって、仲間やつがいの白鳥は、沼地にいる翼の折れた白鳥の上空を何度も旋回するのだ。まるで、「さあ、一緒にシベリアに行こうよ」というように。

「でも、自分がもう長くは飛べないことを知っている白鳥は、1羽だけ富山に残って、仲間たちを見送ります。本能的に、自分の力ではどうにもできないことがあると悟っているんでしょうね。つがいも『あなたがいるなら私も残りますよ』じゃなくて、白鳥の本能として、『みんなと行く』ことを選ぶ。富山の大自然の中で、ひたすら“生きる”ことに忠実な野生動物の姿が、命の重さを感じさせてくれるので、ドキュメンタリーが好きな方だけでなく、ペットを飼っていらっしゃる方とか、大自然の神秘に触れたい方とか、何か心に引っかかる、ものがあれば、映画館に足を運んでいただけると、きっといつの間にか澤江さんの思いと自分の感情がリンクしていくような、貴重な経験ができるんじゃないかと思います。一人で見るのもオツだけど、観た後に色々語りたくなる映画なので、お仲間を誘って観ていただけたら、さらに楽しめるんじゃないかと」

撮影/山本倫子
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天海さん自身、映画を観るたびに、自分が置かれている状況やその時々の心境が反映されることに驚いたりするそうだ。今回の『私は白鳥』では、澤江さんに最初「変わった人」というレッテルを貼ってしまったことを反省した。これだけいろんな役を演じてきても、“愛し方、生き方は人それぞれ”と考えるときの“人それぞれ”の幅に、自分なりの制限をかけてしまっていたことを。

「人間って、何かに一生懸命になっている人を見ると、どうしても『何のために?』と、その動機を考えてしまいますよね。演じるときもそうで、『なぜこの人は今こんなことを言ったのか』と、人物の背景を想像することが、俳優は癖になっています。でも、動物が、自分が大切だと思う相手の命を守りたいと思うことは理屈じゃない。ましてや損得でもない。ただ、今目の前にある命に対して、シンプルに誠実に向き合っているだけじゃないですか。澤江さんなんて、あんな大雪の中で白鳥を探して彷徨いながら、自分が遭難することより白鳥のことを心配しているんですよ! 普段食べるものだって、白鳥にはブランド米。をやって、自分はお蕎麦を召し上がって。本当に何かに夢中になっているときって、『大変だ』なんて思わないんですよね」

(c)2021映画『私は白鳥』製作委員会