2021.12.14

心と意識の謎は量子物理学で解き明かされるのか?

『時間の終わりまで』読みどころ【3】

世界的ベストセラー『エレガントな宇宙』著者ブライアン・グリーンによる新作『時間の終わりまで』から本文の一部を紹介するシリーズ第3回。

なぜ物質が生まれ、生命が誕生し、私たちが存在するのか。膨張を続ける「進化する宇宙」は、私たちをどこへ連れてゆくのか。時間の始まりであるビッグバンから、時間の終わりである宇宙の終焉までを壮大なスケールで描き出し、このもっとも根源的な問いに答えていく本書から、今回は、「宇宙とは、時間とはなんだろう?」と考える私たちの「意識」の謎と物理学の関係に迫ります。

意識と量子物理学

過去数十年間にわたり、意識を理解するためには、量子物理学が必要不可欠だという提案がしばしばなされてきた。ある意味では、それはその通りである。脳を含めて物質的な構造は、量子力学の法則に支配される粒子でできているのだから、量子力学は心を含めてあらゆることを物理的に支えている。

しかし、意識が量子に出会うとき、そこには何かもっと深い結びつきがあるかのように言われることが多い。そういう発言の多くを動機づけているのは、量子力学についての理解には、今も埋められていないギャップがあることだ。世界でもっとも優れた科学者や哲学者が一世紀のあいだ考え続けてきたにもかかわらず、この理論には今も謎が残されているのである。それについて説明しよう。

【写真】優れた科学者や哲学者が一世紀のあいだ考え続けてきたにもかかわらず、今も残る謎photo by gettyimages

量子力学は、物理的なプロセスを記述するためにかつて作られたあらゆる理論的枠組みの中で、もっとも精度が高い。量子力学による予測で、再現可能な実験と矛盾したものはただのひとつもない。もっとも詳細な量子力学の計算の中には、10億分の1より高い精度で実験データと合う結果を出すものがある。

もしもあなたが定量的な数値に興味がなければ、たいていの場合、数値の話は飛ばしてもらってかまわない。しかし今は違う。私が今述べた数値の意味を、ぜひともわかってほしいのだ。シュレーディンガー方程式による量子力学の計算は、小数点以下9桁より高い精度で実験の測定と一致するのである。ここはトランペットが高々と吹き鳴らされるべきところだ。その数字は、人間の理解のみごとな勝利を表しており、人類はその喝采に対し、返礼の会釈をするべきなのである。

それにもかかわらず、量子論の核心部分には、容易には解けない難問が横たわっている。

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