卒業生が戻って来て「先生」に

学習支援ができても、生活面では、困ったままの家庭も多いという。

「先日、お米が欲しい人は? と卒業生80人にメールしたら、すぐ30人から返事が来てお米を送りました。コロナに関係なく、もともと困っている家庭です。それが改善していない、相変わらず厳しいということです。都立高に落ちてしまって私立の高校に進んだ子が、親に『ごめんね、お金かかるからご飯いらないよ』と言って、お腹をすかせていました。こういう子がいると、知ってもらいたいです。

問題は、お金を持っている家と、そうでない家が分断してしまっていることです。持っている家は、寄付という形にして、交流し、理解しあうことが大事。細く長く、寄付してほしいです」

配布したお米とパスタ。寄付からまかなっている 写真提供/八王子つばめ塾

小宮さんは、無料塾の生徒たちに、「毎月500円を寄付してくれるおばあちゃんから、10万円出してくれるお金持ちまで、応援してくれる人がいるよ」と話している。困窮家庭では「どうせ」と言う子が多いというが、気にかけてもらうことで、自己肯定感が育つのではないだろうか。

「無料塾に通う生徒は、将来、人の役に立ちたいと思うようになってほしい。実際に、卒業した子が大学に進学して、戻ってきてボランティアの先生をしてくれています。保育士や心理士、教員を希望している子もいます。

この前は、中高一貫の難関校の子が、無料塾の話を聞きに来て、レポートを書いてくれました。そういった相互理解のきっかけになる、『二月の勝者』のドラマと漫画の影響力に期待しています」(小宮さん)

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「リアル黒木先生」がいる

小学生の親である筆者も、コロナ禍の休校時に、ワンオペ育児で学習や食事のサポートに悩んだ。10代の支援について取材すると、また違った難しさがあり、居場所も学童期よりさらに少ない。一方で、「地域の子供のために何かしたくても、どうしていいかわからない」という高齢者の声も聞いた。人材の活用や、やりがい作りにつながる無料塾の仕組みは、参考になると思う。

漫画やドラマのようにはいかないけれど、リアルな無料塾にも、本業を持ちながら情熱を傾ける「リアル黒木先生」がいて、子供の食や学習の支援に奮闘する市民団体は各地にある。『二月の勝者』を通して無料塾を知った人が、地域の中でそうした場を探し、利用したり応援したりしてほしいと願う。お金があるとか、ないとかに関わらず、すべての子の居場所になる「サードプレイス」が増え、必要な子は、学習をサポートしてもらえて、ご飯が食べられて、困ったことを話せる大人がいたら、親も子も安心だ。

今回のシリーズ取材をする中で、「人を助ける医師になりたい」と中学受験し、勉強を極める最難関校の生徒がいることを知った。そして、「無料塾で応援されたから、応援する人になりたい」と戻ってきて、教える側になった卒業生もいる。どんな生き方も尊重され、小宮さんが言うような、分断されない社会が実現してほしいと思う。

絵馬に書いたことが小宮さんの心からの願いだ 写真提供/八王子つばめ塾