「『あさきゆめみし』のおかげで東大に合格した」と本気で言う人がいるほど、古典の名作『源氏物語』を読み解くために大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』を参考にした人は多い。
そんな『あさきゆめみし』はどのようにして誕生したのだろうか。
連載開始から40年以上の時をへて、新たに新装版として『あさきゆめみし』が刊行されるのを機に、画業55周年を迎えた大和和紀さんへインタビュー。
前編「源氏物語に千年の命を吹き込む『あさきゆめみし』大和和紀さんに聞く誕生秘話」では『はいからさんが通る』の連載が終わってから、どうして「源氏物語」を漫画化しようと思ったのかをお聞きした。
この後編ではいざ漫画化するにあたって具体的にどのように作業をしていったのか、そして紫式部への想いをお聞きする。

大和和紀(やまと・わき)
北海道生まれ。1966年デビュー。代表作に『はいからさんが通る』『あさきゆめみし』『ヨコハマ物語』『N.Y.小町』『にしむく士』『紅匂ふ』『イシュタルの娘〜小野於通伝〜』など多数。アニメ・映画・舞台化もされた『はいからさんが通る』で1977年に第1回講談社漫画賞を受賞。2021年画業55周年を迎えた。
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『あさきゆめみし』は源氏物語に千年の命を吹き込んだ

――写真家・蜷川実花さんが5月に刊行される新装版の6巻巻末インタビューで「『あさきゆめみし』の存在で、向こう千年間分くらい『源氏物語』は読み継がれる」と言っていました。

うれしいですね。やはり、読者に納得していただくには、よどみなく流れるストーリーだけではなく、ディテールが大切です。漫画は背景がありますから、家具や調度品などの資料集めに奔走しました。

連載準備をしていた70年代当時は一般に手に入る平安時代の資料が少なく、わからないことだらけでした。例えば空間を仕切る「几帳(きちょう)」。これはよく出てきますが、この実物を見たことがある人がいない。絵巻物には形こそ描かれていますが、綿か麻かなど素材がわからない。当時の貴族女性が着ていた十二単(じゅうにひとえ)、男性貴族の着物・直垂(ひたたれ)とあっても、実物は見たことがない。

そこで京都に行き、着物屋さんの資料館(井筒・風俗博物館)に伺いました。そこには、几帳、十二単や直垂はもととより、想像もつかなかった細長(ほそなが/幼児の晴着)、汗衫(かざみ/汗取用の下着)などの実物が展示されていたのです。
それから葵祭に行って、それらを着て動いている人を見て、袖の開き方や、どこにしわが入るのかを観察。多くの絵葉書や資料を購入して、作画資料を整えて行ったのです。

光源氏と藤壺の女御の間にある御簾も実物を見たことのあるひとはなかなかいないのでは…(c)大和和紀 新装版『あさきゆめみし』1巻/講談社