2021.12.22

インドネシアの小人「ホモ・フロレシエンシス」の発見は、何が衝撃だったのか?

「高く、大きく」進化の定説を覆す!?
馬場 悠男 プロフィール

ホモ・フロレシエンシスの衝撃

このように、およそ700万年に及ぶ人類進化の過程では、身長と脳が大きくなる傾向があり、逆に小さくなることはないと考えられていた。

ところが、2003年、インドネシアのフローレス島で驚くべき発見がなされた。そこで見つかった女性個体の骨格化石は、年代がおよそ5万年前であるにもかかわらず、約300万年前の猿人と同じく、身長は1.1m、脳容積はわずか420mlしかなかったのである。偶然にも、あのアファレンシスのルーシーと似ている。

【写真】ホモ・フロレシエンシスの頭骨ホモ・フロレシエンシスの頭骨 photo by gettyimages

翌年、「ホモ・フロレシエンシス」と名づけられたこの化石の研究が『ネイチャー』誌に載ると、世界中の人類学研究者たちの間に衝撃が走った。

フローレス島は1度もアジアの大陸や島々とは陸続きになったことはない。だが、これまでも小型のゾウの仲間などの化石が見つかっていて、アジアから偶然に漂着し、独自の進化(「島嶼効果」という)を遂げたと見なされていた。

では、フロレシエンシスもほかの動物と同じように、どこからか漂着して小型化したのだろうか、それとも、もともと小さかったのだろうか。

最初の研究では、フロレシエンシスの頭骨はアフリカや西アジアの初期原人と類似し、四肢骨は猿人あるいは類人猿と似ているなどと考えられた。さらに、成長異常の新人という珍説まで飛び出した。だが脳の形は猿人や成長異常の新人とは違い、原人と似ていることがわかった。

一緒に見つかった石器も、原人のつくる石器と似ていた。そして、同じような石器が
80万年ほど前の地層からも見つかっているので、フロレシエンシスはその当時からここに住んでいたことは確実となった。

さらに最近では、70万年ほど前のフロレシエンシスの祖先の化石骨が見つかり、その時代に、すでに超小型になっていたこともわかった。

フロレシエンシス研究で目の当たりにしたディテール

私は、当時、同じ国立科学博物館にいた海部陽介と、以前からジャワ原人の研究をしていたので、2006年以降、フロレシエンシスの研究に加わることになった。

フロレシエンシスの顔は眼窩上隆起が発達し、額が平らで、歯は顔のわりには大きく、口が出っ張っているが、猿人とは違い、原人と似ている。残念ながら鼻の部分が欠けていて、どれくらい隆起していたかわからない。

海部を中心とする頭骨の比較形態分析では、ジャワ原人と最もよく似ていることが判明した。したがって、おそらく100万年前あるいはそれ以前に、初期のジャワ原人の仲間が東南アジアのどこかから、たとえば津波によって流されてフローレス島に漂着し、小型化した可能性が高いと結論づけられた。彼らの大冒険に敬意を表したい。

【写真】フローレス島にいた動物たちの復元CGとフロレシエンシスの生体復原模型国立科学博物館に展示されたフローレス島にいた動物たちの復元CGの前に立つフロレシエンシスの生体復原模型(写真:筆者) 『「顔」の進化」より

2010年には、NHKでの番組制作と協力して、フロレシエンシスの生体復原模型とフローレス島にいた動物たちの復元CGが制作され、国立科学博物館に展示された。

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