直立二足歩行だけではなかった! 気候乾燥の時代に生じたヒト独特の特徴

「食性変化」猿人が選んだ2つの選択
海部 陽介 プロフィール

子孫を残せなかった頑丈型猿人は、進化の失敗作?

頑丈型猿人は、かなり特殊化した人類でした。しかもその特殊性は、時代を追うにつれてますます強まっていったことがわかっています。270万年前ごろ、最初に登場した頑丈型猿人(パラントロプス・エチオピクス)は、歯の巨大化傾向や側頭筋の発達を示す一方、突顎がが強いという原始的特徴も保持していました。

【写真】パラントロプス・エチオピクスの頭骨初期の頑丈型猿人パラントロプス・エチオピクスの頭骨

ところが、後のタイプではこの突顎が弱まり、歯や顎の巨大化もさらに進みます。とくに東アフリカで進化したパラントロプス・ボイセイは、超頑丈型とも形容されるほど極端な進化を遂げました。

このように特殊化した頑丈型猿人は、140万年前ごろ、子孫を残すことなく絶滅してしまいました。それでは絶滅した彼らは"進化の失敗作"だったのでしょうか?

答えは、イエスでもノーでもありません。生物の進化を適切に理解していれば、進化に"正しい"とか"誤った"という観点を当てはめられないことがわかりますが、そのことを少し説明しましょう。

非頑丈型猿人の一部が肉食傾向を強めたことも、頑丈型猿人が根茎類などに目をつけたことも、気候の乾燥化という環境変化への対応策として生じたものと考えられます。それでは果たしてそのときに、非頑丈型は将来の発展を意識して肉食をはじめたのでしょうか? 頑丈型は先見性がなかったから、肉食を選ばなかったのでしょうか?

もちろんそのようなことが起こるはずがありません。そうではなく、おそらく彼らの選択は、たまたま住んでいた土地の環境などに影響されたものだったのでしょう。

実際に、頑丈型猿人の選択は、決して無意味なものではありませんでした。非頑丈型猿人の一部が絶滅し、他の一部がホモ属への進化を遂げた後にも、頑丈型の系統はさらに100万年ほどの長い期間にわたって、上述のような特殊化を強めながら繁栄を続けました。彼らが最後に絶滅した本当の原因はわかっていません。

しかしいずれにせよ、先に挙げた「推定される人類の系統樹」の図を見てわかるように、非頑丈型猿人が姿を消した後も、彼らは本当に長いあいだ存在していたのです。

いくつかの異なる系統に分かれ、頭骨や顔面や歯の形態を多様化させたものの、小さな脳や小柄な体格といった共通特徴を保持していました。さらに猿人全体として、その500万年ほどの進化史の中で不変だったもうひとつの側面は、彼らがアフリカ大陸の中にずっととどまっていたということです。

中国やインドネシアなどの地域では、これまでに何度も猿人の化石が発見されたという報告がありましたが、その後の精査で、それらはことごとく否定されてきました。また、ユーラシア各地で相当数の遺跡が調査されていますが、信頼できる猿人の化石証拠は、これまでにひとつもでてきていません。

もちろん、将来、このような状況を覆す発見がなされることを否定することはできません。しかし現状を見ると、猿人は、やはりアフリカにだけいた人類であったようです。したがって、アフリカからユーラシアへと進出した最初の人類は、猿人以降の人類であったことになります。

猿人から原人とよばれる彼らの進化について、さらにネアンデルタール人などに代表される旧人、現生人類に至る道程について、『図解 人類の進化』で詳しく取り上げていますので、ぜひ一度お手に取ってご覧ください。

*記事中のイラストには、『図解 人類の進化』収載のものがあります。イラストレーター・安富 佐織(Saori Yasutomi)

図解 人類の進化 猿人から原人、旧人、現生人類へ

編・著 斎藤 成也/著 海部 陽介、米田 穣、隅山 健太

化石や遺伝子の研究から、われわれ人類の進化の過程が明らかになってきました。第一線の研究者たちが、進化の基礎からゲノムの話題まで、豊富なイラストを使って、初心者にもわかりやすく解説します。2009年に刊行した『絵でわかる人類の進化』に加筆修正した新書版。

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