直立二足歩行だけではなかった! 気候乾燥の時代に生じたヒト独特の特徴

「食性変化」猿人が選んだ2つの選択
海部 陽介 プロフィール

乾燥化による食性変化

猿人はその進化史の後半で、大きくふたつの系統に分かれたらしいことがわかります。一方のタイプは歯や顎が適度に大きいグループで、非頑丈型(華奢型)猿人とよばれています。その代表は、アウストラロピテクス属です。これに対しもう一方は、巨大な歯と顎をもち、脳頭蓋の上にウルトラマンのような稜を発達させ、平坦な顔つきを備えていました。人類学者は、彼らを頑丈型猿人とよんでいます。

頑丈型猿人はかなり変わった人類でした。その顎の骨の頑丈さは半端なものではありません。歯が巨大といいましたが、実は後歯(小臼歯と大臼歯)がそうである一方、前歯(切歯と犬歯)は現代人並みに縮小しています。これらは、後歯を使ってパワフルに食べ物を咬かむことへの適応と理解できます。実は、脳頭蓋の上の稜や平坦な顔も、側頭筋という下顎を引っ張り上げるための筋肉が極度に発達したために形成された特徴なのです。

【写真】頑丈型猿人と非頑丈型(華奢型)猿人の頭骨、下顎骨の比較頑丈型猿人と非頑丈型(華奢型)猿人の頭骨、下顎骨の比較

このような頑丈型の特徴は、東アフリカで270万年前ごろから表われはじめます(パラントロプス・エチオピクス)。その後、南アフリカにも頑丈型のパラントロプス・ロブストスが現われ、東アフリカには超頑丈型ともよばれるパラントロプス・ボイセイが繁栄するようになります。

このような頑丈型猿人の特殊化には、背景として環境変動があっただろうというのが大方の見方です。前回の記事〈「地球温暖化はヒト誕生の宿命?」環境変動から"人類の時代"第四紀を振り返る〉(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89806)でも述べられていますが、このころから、地球の氷期・間氷期サイクルが顕著になり、アフリカでは気候の乾燥化傾向が強まりました。

森林が減り、草原が広がる中で、果実などの食物は乏しくなり、これに代わる食物としておそらく硬いナッツ類や根茎類などを多く食し、そのために歯や顎を発達させたのが頑丈型猿人であったというわけです。

肉食をはじめた人類

一方で、同じ気候変動にみまわれた非頑丈型猿人たちのグループの一部は、どうやら動物の肉を多く食べる戦略に切り替えたようです。

野生のチンパンジーやヒヒも、小型のサルやレイヨウ類などを捕らえてその肉を食べることがありますが、その量はわずかです。猿人は、その大部分の進化史において、基本的に植物食であったと推定されています。ルーシーの肋骨の破片から胸郭の形を復元すると、類人猿のように腹部が膨らんでいることがわかりました。これは彼らが、草食動物の特徴である長い腸をもっていたことを示唆しています。

ところが東アフリカでは、260万年前ごろの地層から、人類最古段階の石器に混じって、石器による切り傷(カット・マーク)のある動物骨化石が見つかるようになるのです。石で叩たたいて割ったとみられる骨も見つかっています。これは、人類が骨を砕いて、中にある脂肪分が豊富な骨髄を取りだした痕跡と考えられています。

【イラスト】260万年前ごろの人類最古段階の石器260万年前ごろの人類最古段階の石器 illustration by Saori Yasutomi

このような地層から一緒に見つかっているのは、アウストラロピテクス・ガルヒという学名をつけられた非頑丈型猿人の一種です。

そして240万年前ごろになると、多数の石器とともに、脳が拡大し、歯のサイズが縮小した最初期のホモ属が現われたようです。

これらのことは、末期の非頑丈型猿人が次第に肉食を多く行なうようになり、私たちのようなホモ属へと進化していったというシナリオを暗示しています。必ずしも、彼らが肉ばかりを食べていたわけではないでしょう。しかしどうやら肉食を含む雑食へのシフトが、私たちヒトを生んだらしいのです。

関連記事