直立二足歩行だけではなかった! 気候乾燥の時代に生じたヒト独特の特徴

「食性変化」猿人が選んだ2つの選択
海部 陽介 プロフィール

最初の人類、初期の猿人と猿人

ヒトの一番古い祖先は、チンパンジーとボノボとの共通祖先から枝分かれして、1000万年〜700万年前のどこかの時点で誕生したと推定されています。この数字は、これまでの研究史の中で、およそ2000万年〜200万年前の範囲で、さまざまに動いてきました。

しかし最新のDNA研究の予測と、現在までに見つかっている最古の人類化石がおよそ700万年前のものであることから、1000万年〜700万年前という数字は、かなり正解に近いだろうと、現在の多くの研究者が考えています。

【イラスト】推定される人類の系統樹 illustration by Saori Yasutomi推定される人類の系統樹 illustration by Saori Yasutomi

さて、ヒトとチンパンジーが約700万年以上前に祖先を共有していたなら、その祖先はチンパンジーのような姿をしていたのでしょうか。チンパンジー自身もこのあいだに進化しているわけですから、必ずしもそうとは限りません。

しかし、現生大型類人猿に共通する、大型の犬歯、深い体毛、長い腕、小さな脳といった特徴は、おそらくこの共通祖先ももっていただろうという予測は成り立ちます。さらにこの祖先は、もちろん二足直立歩行はしていなかったでしょうし(そうだとすればチンパンジーは一度二本足で立ち上がって、その後に再び木に登ったことになります!)、おそらく体のサイズもそう大きくはなかったでしょう。

これまでの化石の調査から、700万年〜250万年前のアフリカの大地には、チンパンジー的な体つきをし、小さな脳と突出した顔、比較的大きな犬歯をもち、おそらく部分的に木登りをしながらも、二本足で地上を歩き回っていた人類がいたことがわかっています。彼らは、骨格の形態特徴からいくつかの属、さらに種に分類されていますが、大きくまとめるときは、「初期の猿人」と「猿人」の2つに分けます。

猿人たちが歩いた証拠

猿人が二足直立歩行をしていた可能性は、1924年に、最初の猿人の頭骨化石が発見されたときから指摘されていました。

頭骨の底面にある脊髄の通る孔が、類人猿では頭骨のやや後方に開口しているのに対し、ヒトでは前方に移動しているのです。これは、類人猿が四足で歩くのに対し、直立姿勢をとるヒトでは頭骨が身体の真上に位置していることと関係しています。南アフリカで見つかったアフリカヌス猿人(280万年〜230万年前)の頭骨を研究したレイモンド・ダートは、頭骨底面のこの特徴を見逃しませんでした。

こうした猿人の姿勢の研究は、1970年代にエチオピアで次々と発見された370万年〜290万年前のアファレンシス猿人の化石、とくに"ルーシー"とよばれる1体の骨格(全身の半分近くの骨が残っていた)の発見によって、飛躍的に進みました。

ルーシーは成人女性で、身長は1mをわずかに超える程度の低さでした。その骨盤や下肢には、四足歩行の霊長類とは違うヒト的な特徴が見つかり、アファレンシス猿人が二本足で地上をしっかり歩いていたことが決定的となりました(ただしこれがどの程度完成された二足歩行であったかについては、今でも議論があります)。

【写真】ルーシーの骨格と復元像発見されたルーシーの骨格(左)とジュネーブ自然史博物館に展示されている復元像 photo by gettyimages

ルーシーの発見のさらに4年後の1978年には、タンザニアのラエトリ遺跡で、猿人が手をつかずに二本足でまっすぐ歩いていたことを示す360万年前の猿人の足跡化石が発見され、そこから足の親指が他の4本の指と平行に並ぶようになり、土踏まずが形成されるなど、私たち現代人の形にかなり近づいたものだったことが、よりはっきりしました。

より古い時代の「ラミダス猿人」が発見される

2009年の秋には、ルーシーに続く画期的な発見の報告がなされました。アファレンシス猿人の祖先であった可能性のある、440万年前のラミダス猿人(初期の猿人)の骨格化石の研究成果が発表されたのです。これは1994年に発見されたもろく断片化した化石を、コンピュータ技術を駆使した困難で長い保存作業の結果、見事に修復したものです。研究の成果は、アファレンシス猿人以前のさらに古い人類について、多くのことを教えてくれます。

【イラスト】現時点で妥当と考えられる猿人の系統樹現時点で妥当と考えられる猿人の系統樹 illustration by Saori Yasutomi

ラミダス猿人は二本足で地上を歩くことができましたが、アファレンシス猿人とは異なって、足が手と似た構造をしていてものをつかむことができました。さらにアファレンシス猿人と比べて木登りが得意だったようです。ただし枝にぶら下がる行動はしていなかったらしく、チンパンジーなど現生の類人猿とも異なる面がありました。

断片的な化石証拠から、さらに古い700万年〜500万年前の猿人も、二本足で歩いていたらしいことが推測されています。しかしラミダス猿人の研究から、人類の二足直立歩行は最初から"完成"していたのではなく、木登りとの併用期を経て進化してきたことが明らかになってきました。

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