単なる「クソ仕事」ではない…多くの人が苦悩する「ブルシット・ジョブ」の本当の意味をご存知ですか?

日本でも翻訳書が出版されてから話題沸騰の「ブルシット・ジョブ」——。

言われればどんな仕事を指すか、何となく思い当たる節がある人も多いだろう。しかし英語での原義を丁寧に見ていくと、そこには見落とされがちな大事なニュアンスがあるという。

ブルシット・ジョブとはなにか? 『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』著者の酒井隆史さんが徹底的に解説します。

BSJの定義

ここではBSJとはなにか、その定義を詳しく検討してみましょう。

基本的にそれは「完璧に無意味で、不必要で、有害でさえある雇用の形態」です。要するに、あってもなくてもクッソどうでもいいし、それどころか、なにかダメージをもたらすこともある、そんな仕事のことです。それがBSJという概念のコアにあるのです。

「ブルシット・ジョブとはなにか?」と題された第一章では、徐々に、定義が深められていきますが、最初の「暫定的定義」はこうでした。

暫定的定義その一:BSJとは、被雇用者当人ですら、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でさえある雇用の形態である(BSJ 19)

まずjobについて。ブルシット・ジョブはbullshit jobsであって、bullshit laborsでもbullshit worksでもありません。それでは、jobとはどういう意味なのでしょうか。

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オンラインの『ケンブリッジ辞典』では、jobは「the regular work that a person does to earn money」と定義されています。お金をうるためにおこなわれるregular work、これは定職とか本業とふつう訳されています。もうひとつ『ロングマン現代英英辞典』によれば、「the regular paid work that you do for an employer」で、雇用者のためにおこなわれるレギュラーの支払い労働。つまり、ジョブとは、報酬のためにおこなわれる雇用された定期的な仕事といった意味です。

 

laborとwork、jobとの違いは?

つぎにlaborについて。これはふつう労働あるいは仕事と訳されます。辞書によってさまざまですが、たとえば複数の辞書で「very hard work, usually physical work」つまり「とてもハードなワーク、たいてい肉体ワーク」といった意味ででてきます。とはいえ、laborは肉体労働にかぎったものではありません。『ランダムハウス英和大辞典』によれば、名詞としては最初に「(利潤追求の)生産活動、労働、勤労;(精神・肉体的)労力、骨折り、苦心;〔軍事〕(民間人・捕虜の)労務」といった定義があらわれます。2番目の定義は「(経営者・資本家に対する)労働者(階級)、労働力;(賃金・肉体)労働者」です。

workもまた、労働や仕事という日本語があてられます。『ケンブリッジ辞典』では、「an activity, such as a job, that a person uses physical or mental effort to do, usually for money」。ジョブのような活動、肉体や精神の活動をもって、たいていはお金のためにおこなわれる、というわけですが、ここではvery hardといったニュアンスが消えています。『ランダムハウス英和大辞典』では、最初の定義が「労働、働き、骨折り、労、努力(labor、toil)」。2番目の定義が「(…すべき)仕事、務め、任務、課業(task);(…の)勉強、研究;雑用、片手間仕事」となっています。

どうもlaborのほうには、賃労働という制度を想起させる意味が強く、ハードでツライというニュアンスがある。それに対して、workのほうは賃労働以外の活動もふくむし、もう少し一般的な活動、課題をこなすことといったニュアンスがあるようです。
ハンナ・アーレントのような哲学者は、labor(労働)を、生物学的必要を充たすための、そして種の再生産にかかわる活動と捉え、すぐに消費される対象の生産にかかわるため、終わりがないと定義しました。それに対し、work(仕事)は、より耐久力のあるわたしたちの生活を構築するもの、環境を形成するものを、自然の変形を通してつくります。このような厳密な対立を導入しました。

『ブルシット・ジョブ』でも、もちろん、laborとworkが頻出しますが、かなり互換的に使用されているようにおもいます。しかし、翻訳では一応、laborには労働、workには仕事をあてています。

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