2020年2月に公開された河合宏樹監督の『うたのはじまり』は、ろう写真家・齋藤陽道氏(さいとう はるみち)を追ったドキュメンタリー映画だ。耳の聞こえない彼が、同じく耳の聞こえない妻との間に生まれた子どもに子守唄を歌ったことをきっかけに、それまで苦手に感じて遠ざけていた「音楽」に心を開いていく姿が描かれている。

出典/SPACE SHOWER FILMS 公式YouTube 

河合監督はいつもコミュニケーションをテーマにした作品を制作しており、本作は、七尾旅人氏のライブ映像作品『兵士A』と『ほんとうのうた~朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って』に続く3作目。12月3日から12日まで開催される無料のオンライン映画祭「True Colors Film Festival」で改めて上映される本作について、河合宏樹監督に話を聞いた。

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「産声はどんな色をしているの?」

――本作には、齋藤陽道さんの妻で斎藤さんと同じくろうの写真家・盛山麻奈美さんのお産シーンがあります。二人のお子さんの樹君が産声を上げたときに、齋藤さんから「産声はどんな色をしているの? どんな形をしているの?」と監督が聞かれてどのように答えるのが正しいのかわからなかったことが本作のテーマを考えるキッカケになったとお聞きしました。

河合宏樹監督(以下、河合監督): 齋藤さんに出会ったのはお産のシーンを撮影したときの3年前です。その後、SNSでやりとりするようになり、だんだんと齋藤さんの作品に対する姿勢に惹かれていきました。そこで奥さんの麻奈美さんとも一緒にお会いした時点(その時既にお子さんを宿していた)で、ご家族のドキュメンタリーを撮影したいとお願いしたんです。

僕はあまり計画的な人間ではないので、お産のシーンを撮った時点ではこの作品のテーマやカタチははっきりと浮かんでいませんでした。それよりも、最初は齋藤さんが人間として魅力的だったから直感的に撮っていた、という感じですね。彼を撮影したくなったのは、彼がろう者であることだったり、写真家であることだったり、そうしたレッテルは関係なかったと思います。

(c)2020 hiroki kawai / SPACE SHOWER FILMS

――齋藤さんの人間的な魅力とはどんなところですか? 齋藤さんは20歳のときに補聴器を捨てて「聞く」ことよりも「見る」ことを選び、写真家としてMr.Childrenなど多くのミュージシャンの写真を撮影したり個展を開いたり、数々の賞を受賞されている方ですよね。

河合監督: 僕は演出家の飴屋法水さんと聖歌隊のCANTUSが主催するイベントに出演する齋藤さんを観て、初めて彼の存在を知りました。ただ、当時はろう者と聖歌隊を組み合わせた意図的な演出の理由を深く理解できていなかったんです。そのイベント以降、彼とコミュニケーションしていきました。齋藤さんは誰に対しても特別扱いすることはなく、等しく“心の通った”コミュニケーションを僕にもしてくださいました。そうした彼の人間的魅力に気づいたときに、あのイベントの演出の意図も少しづつわかるようになってきました。

(c)2020 hiroki kawai / SPACE SHOWER FILMS