物理学者が解き明かす、いずれ終末を迎える宇宙で私たちが生きる意味

『時間の終わりまで』読みどころ【1】
ブライアン グリーン プロフィール

衰退を運命づけられた宇宙と、われわれが生きる意味

さてさて、少々気持ちが高ぶってしまったようだ。大学二年生だった大昔の自分に対し、ちょっと頭を冷やせと忠告すると同時に、今の私もここらで一息入れるとしよう。とはいえ、あのとき私が感じた興奮は、天真爛漫な一過性の知的驚きなどではなかった。

あれから四〇年近い時間が流れたが、これらのテーマは、意識にのぼることさえない小さな炎のゆらめきのように、つねに私とともにあった。日々の仕事は、物理学の統一理論と宇宙の起源を解明することだが、科学の進展のより大きな意味に思いをめぐらすうちに、ふと気がつけば、われわれひとりひとりに割り振られた時間には限りがあるという問題へと、心は繰り返し立ち返るのだった。

今の私は、科学者として身につけてきた態度と、持ち前の気質のために、すべてを説明する答えがひとつだけあるという考えに懐疑的だ──物理学には、力を統一すると称して発表された理論の屍が累々と転がっている。

人間の行動という複雑な領域に大胆にも踏み出すなら、すべてを説明する答えがひとつだけしかないとは、さらに考えにくい。実際、私の場合についていえば、自分がいずれ死ぬという知識には一定の影響力があるにせよ、私の行動のすべてがそれで説明できるわけではない。それと同じことは、多かれ少なかれ誰にでも当てはまるだろう。それでも、人はみな死ぬという知識が、さまざまな方面に触手を伸ばしているのは間違いないし、実際、その触手がとくに鮮明に見て取れる領域がひとつあるのだ。

さまざまな文化と時代を通じて、われわれは永久不変であることに絶大な価値を与えてきた。価値を与えるやり方は、それこそ人それぞれだ。絶対的真理を探し求める者もいれば、不朽の遺産を残そうとする者や、壮大な記念碑を建設する者もいるし、不変の法則を追究する者もいれば、後世に残る何かを生み出すことに情熱を傾ける者もいる。そんなことに取り憑かれたように取り組む人たちを見るなら、永遠性は、自分の身体がいずれ滅びることを意識する人たちに、強い引力を及ぼしているのは明らかだろう。

われわれの時代には、実験、観察、そして数学的解析という装備を手にした科学者たちが、未来へと向かう新たな道を切り開いてきた。その道は、歴史上はじめて、宇宙の終わりの顕著な特徴を、遠くからではあるけれど、望ませてくれた。霧や霞がかかってあちこちぼやけてはいるが、その眺望のおかげで、思考する生物であるわれわれが、壮大な時間の流れのどのあたりにいるのかを、かつてないほど正確に知ることができるようになった。

そこで本書では、衰退を運命づけられた宇宙の内部に、星と銀河から生命と意識まで、さまざまな秩序構造をもたらす物理原理を見ていきながら、宇宙の年表に沿って未来へと向かうことにしよう。

人の寿命は限られているが、宇宙における生命と心という現象もまた、限られた時間しか存在しないことを明らかにする議論も見ていこう。実のところ、ある時点から先には、組織化された物質は存在できそうにない。それがわかれば、内省する生物である人間は、どうしたってのんきではいられない。その不安に対し、人がどう向き合うのかも見ていこう。

われわれ人間は、われわれが理解する限りにおいて時間を超越している法則から生じたにもかかわらず、人間がこの宇宙に存在できる時間は短い。われわれは、目的地がどこであろうと頓着しない法則に導かれているにもかかわらず、自分たちはどこに向かっているのかとたえず自問する。われわれは根本的な理由など気にしない法則によって形づくられているにもかかわらず、意味と目的を執拗に欲しがる。

要するに、時間の始まりから、終末といえそうな何かに至るまで、宇宙を詳しく見ていこうというわけだ。そして、休みなく活動する創意に満ちた頭脳が、万物の根本的なはかなさを明らかにし、そうした明らかになった事実に対し、驚くべき応答をする様子も見ていこう。

この探究の旅を導いてくれるのは、さまざまな科学分野で得られた洞察だ。読者のみなさんには、わずかばかりの背景知識があれば大丈夫。旅に必要なことはすべてアナロジーとメタファーを使って説明するし、専門用語は使わない。とくに難しい概念については、みなさんが道に迷わず旅を続けられるよう、ざっくりと要点を説明しよう。巻末には詳しい説明や数学的詳細を与える。参考文献と、さらに知りたい人のための読み物ガイドもつけよう。

テーマが壮大でページ数は限られているので、私は細い道を行くことにした。大きな宇宙の物語の中で、今どのあたりにいるかを押さえておくために重要だと思われる分岐点では、立ち止まって一息入れるとしよう。ここに語られるのは、自然科学を原動力とし、人文科学に意義づけられた旅であり、われわれを豊かにしてくれる気概にあふれたひとつの冒険の源泉である。

(翻訳:青木 薫

【写真】ここに語られるのは冒険の源泉だphoto by gettyimages

*本記事は『時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙』をもとに作成しました。

時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙

【書影】時間の終わりまで

著:ブライアン グリーン 訳:青木 薫

世界的ベストセラー『エレガントな宇宙』著者の最新作

なぜ物質が生まれ、生命が誕生し、私たちが存在するのか?

進化する宇宙は私たちをどこへ連れてゆくのか?

ビッグバンから時空の終焉までを壮大なスケールで描き出す!

この進化する宇宙の中で、ほんの束の間、まったく絶妙な瞬間に存在する私たち人間を基点に、時間の始まりであるビッグバンから、時間の終わりであるこの宇宙の終焉までを、現代物理学の知見をもとに、「存在とは何か」という根源的な問いから描き出す。第一級のポピュラーサイエンス!

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