物理学者が解き明かす、いずれ終末を迎える宇宙で私たちが生きる意味

『時間の終わりまで』読みどころ【1】
「なぜこの宇宙は存在するのか?」という究極の問いを超ひも理論で解き明かそうとした世界的ベストセラー『エレガントな宇宙』。サイエンス好きなら書名を覚えている人も多いだろう。その著者でもあり、理論物理学者でもあるブライアン・グリーンの久々の新作『時間の終わりまで』が刊行された。

なぜ物質が生まれ、生命が誕生し、私たちが存在するのか。膨張を続ける「進化する宇宙」は、私たちをどこへ連れてゆくのか。時間の始まりであるビッグバンから、時間の終わりである宇宙の終焉までを壮大なスケールで描き出し、このもっとも根源的な問いに答えていく第一級のポピュラーサイエンス、その冒頭部分を紹介する。

宇宙の法則は数学の言葉でできている?

「僕が数学をやるのは、いったん定理を証明してしまえば、その定理は二度と揺るがないからだ。永遠にね」。シンプルでズバリ核心を突いたその言葉に、私はハッとした。当時私は大学の二年生で、心理学の課題として、人間の動機というテーマでレポートを書いていた。そのことを、長年にわたり数学のさまざまな分野について教えてもらっていた年上の友人に話したのだった。彼のその返答は、私を一変させた。

私はそれまで、数学のことを多少なりともそんなふうに考えたことはなかった。私にとって数学とは、平方根や、ゼロによる割り算といったトピックを面白がる奇妙なコミュニティーで行われる、抽象的な正確さを競う不思議なゲームだった。ところが、彼の言葉を聞いたとたん、歯車のようなものがカチリと噛み合った。「そうか、それが数学のすごさなんだ」と私は思った。

【写真】カチリと噛み合ったphoto by gettyimages

論理と公理に拘束された創造性の指し示すところに従い、さまざまな概念を操作したり組み合わせたりすることで、揺るぎない真実があらわになる。ピタゴラス以前から描かれ、遠い未来にも描かれるであろう直角三角形のすべてが、ピタゴラスの名前を冠した有名な定理を満たすのだ。例外はひとつもない。

もちろん、前提を別のものに取り替えて、バスケットボールの表面のような曲面上に描かれた三角形といった新しい領域を探ることはできるし、そんな領域ではピタゴラスの結果は成り立たない。しかし、前提をひとつに定めれば、そして自分の仕事にミスがないことをきちんと確かめ、再度確かめ直すなら、あなたが得た結果は永遠に残る。高い山に登ったり、砂漠をさまよったり、地下世界を征服したりする必要はない。あなたは机に向かって椅子に掛け、紙と鉛筆、そして透徹した頭脳を使って、時間を超越した何かを作ることができるのだ。

この見方は、私の世界を大きく広げた。それまで私は、自分はなぜ数学や物理学に心惹かれるのだろうかと考えたことはなかった。問題を解くのは前々から好きだったし、宇宙がどうやってできたのかも知りたかった。しかし今や私は、自分が数学と物理学に心惹かれるのは、これらの分野は、儚い日常を超越しているからだと納得がいったのだ。

若者らしい感受性ゆえに数学と物理学にのめり込んだ面もあったかもしれないが、私は突如として、あまりにも基本的なので永遠に変わりようがない洞察を得る旅に参加したいという自分の思いにはっきりと気がついた。政治体制の浮き沈みも、ワールドシリーズの勝敗の行方も、映画やテレビや舞台で評判の作品も、なるようになればいい。私は生涯をかけて、何か超越的なものを垣間見たいと思ったのだ。

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