2021.12.03

「社会はリベラルに運営し、個人としては保守的に生きよ」…〈21世紀の道徳〉が教えること

ベンジャミン・クリッツァー プロフィール

常識的な生き方を擁護する

さて、先述したように、規範とは「他人事」であるのに対して、幸福や愛情などの価値とは「自分事」である。他人が関わる物事については自分がどう感じるかとは関係なく理性にしたがうべきであるが、「自分の人生を幸福なものにする」ということを考える場合には、感情を無視することはできない。

『21世紀の道徳』では、古代ギリシャでアリストテレスストア派の哲学者たちが提唱した、徳倫理学の考え方を参考にしながら、価値についての議論をおこなっている。また、1990年代のアメリカで誕生したポジティブ心理学の知見も紹介している。ポジティブ心理学はアリストテレスによるユーダイモニア(幸福/繁栄)論に、科学的な裏付けを与えた学問であるのだ。

 

「人間の心理とはどのような仕組みになっているのか」「わたしたちの心の内に幸福や愛情が生じるのはどのようなときであり、それはなぜ生じるのか」ということを考えていくと、結論は保守的なものにならざるをえない。快楽や充実感などの幸福に関する感覚は、それらの報酬を与えることで「生存と繁殖」に貢献する行動をするようにわたしたちを誘導する、進化によって身に付いたインセンティブ・システムだ。そして、人間とは他の動物に比べて複雑な社会性と長期的な視野を持つ生物であることを失念してはならない。

食欲や性欲などから得られる短期的な快楽はすぐに消失してしまうため、ただ快楽を充たすことを目的にした生き方には際限がなく、不幸につながりやすい。それよりも、「自分にはどんな能力があってどんなことに向いているか」という強みを発見したうえで、人生の目標を定めて、やりがいのある仕事に就いて、自分の能力を発揮して自己実現することを目指す生き方をするべきだ。

また、大多数の人にとっては、信頼できるパートナーと恋愛したのちに結婚をして、子どもをつくるほうが、そうでないよりも幸福になりやすいのだ。

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