2021.12.03

「社会はリベラルに運営し、個人としては保守的に生きよ」…〈21世紀の道徳〉が教えること

多数の個人が複雑な関係で結びつく現代社会において、公正に社会を運営するためにはどのような規範に従えばいいのか。そして、個々人はどうすれば幸福への道を歩めるのか。『21世紀の道徳──学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える』(晶文社)を発表した批評家のベンジャミン・クリッツァー氏が、様々な学問的知見をもとに考える。

「倫理学」を「心理学から考える」

このたび発売されるわたしの著書『21世紀の道徳──学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える』では、道徳について扱う哲学である「倫理学」の考え方について、いくつもの切り口から紹介している。そこに、進化心理学をはじめとするさまざまな心理学の知見を取り入れていることが本書の特徴だ。

ひとくちに倫理学といっても、「このような問題についてはこのような方法で判断するべきだ」「このような事態ではこのように行動するべきだ」といった「規範」に関する議論もあれば、「幸福」や「愛情」や「人生の意味」などの物事の「価値」に関する議論もおこなわれている。

 

規範に関する議論にせよ、価値に関する議論にせよ、「人間の心理とはどのようなものであるか」ということが重要なポイントとなる。たとえば規範については、「道徳的な判断は理性に基づくべきか、感情に基づくべきか」ということに関する議論が積み重ねられてきた。

また、幸福や愛情などはわたしたちの心の内から湧き上がってくるものだ。古代ギリシャの時代から現代にいたるまで、哲学者たちは「人間の心理とはこのようなものである」という仮説をそれぞれに立てたうえで、規範や価値に関する議論を展開してきた。

とはいえ、現代では、人間の心理について科学的な観点から分析する学問である心理学が発達している。『21世紀の道徳』では、心理学の知見に基づきながら哲学者たちの議論の「審査」をおこなった。

たとえば、ある哲学者が人間の心理に関してまったく事実に基づいていない誤った仮説を立てていたとすれば、その仮説に基づいた議論をそのまま受け入れるべきではないだろう。とくに幸福や愛情などに関する議論については、人間というもののことがなにもわかっていない人の言うことを聞くわけにはいかない。

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