2021.11.29
# 発酵 # 醸造

発酵を科学し、より旨い日本酒を開発する…日本酒研究の面白さとは?

理系のキャリア図鑑

目に見えない小さな微生物が一生懸命働いて作ってくれるお酒。いろいろな種類がありますが、日本には、古来から親しまれ、かつ神聖なものともされてきた日本酒があります。

近代になって醸造技術が発達し、それほど時間をかけずとも大量にお酒を造ることが可能となりましたが、昔は職人が手間暇かけ精魂込めて米と水に麹を仕込み、熟成させてきました。発酵過程の諸条件によってお酒の出来栄えは大きく変わり、その繊細さに興味が尽きません。

多種多様な理系社会人のインタビューを通じて、やりがいと誇りを持てる働き方を探る「理系のキャリア図鑑」シリーズ。

今回は、伝統的な酒造りにこだわりつづけ、日本では数少ない、生酛(きもと)づくりを行っている菊正宗酒造株式会社の総合研究所所長 山田翼様に、日本酒の研究開発の面白さややりがいを聞きました!

写真提供:菊正宗酒造株式会社

菊正宗酒造株式会社
1659年(万治2年)創業、362年の歴史を誇る酒造メーカー。水と米、米麹を手作業ですり合わせる酛摺り(もとすり)を手間暇かけて行い、自然の乳酸菌の力を借りてじっくりと酵母を育む「生酛づくり」の伝統を守っている。清酒製造だけでなく、長年培った「発酵技術」を活かした化粧品や食品の開発など、豊かで健やかな暮らしに貢献している。https://www.kikumasamune.co.jp

酒造りの謎を科学で解き明かす

——山田さんは、現在菊正宗酒造総合研究所の所長でいらっしゃるとのことで、今日は日本酒研究の面白さについて色々教えてください!

菊正宗は江戸時代(1659年)の創業から兵庫の六甲山系の自然の恵みを生かした酒造りで人々に親しまれてきました。良質な酒米山田錦と、宮水という名水に恵まれ、硬水仕込み特有のすっきりとした辛口の味わいが特徴です。

長い伝統がありますが、明治時代になると、第8代当主の嘉納治郎右衞門尚義が「どうしても良い酒を造る」という信念のもと、1889年(明治22)にはドイツから顕微鏡を購入したり、醸造学を学んだ技術者を招へいするなどして、業界に先駆けて「近代醸造」への足掛かりを築きました。1988年に研究室と教育事業室を拡充するために研究所を新設し、これが現在の菊正宗酒造総合研究所です。

写真提供:菊正宗酒造株式会社

——総合研究所では具体的にどういう研究を行っているのですか?

酒造りにかかわる基礎研究や新製品の開発を行っています。

商品開発は、特別な能力がある酵母を探す「微生物育種」や育種した酵母や既存酵母を用いて特徴ある清酒を創り出す醸造方法の検討が中心になりますが、既存商品の品質向上にかかわる製造技術の研究も行っています。

基礎研究は、一言でいうと「酒造りの謎を解き明かす」研究で、菊正宗が江戸時代から受け継いできた伝承の酒造技術である「生酛(きもと)」を科学的に解明しようとする研究などをしています。

微生物や酵素の細かな働きなど、酒造りにはまだまだ科学的に分かっていないことが多くあります。清酒の原料の米は農産物なのでその品質は一定ではありませんし、外部環境も季節により異なります。そのような中で安定した品質の酒を造るためにも、そうした基礎的な研究が大切になってきます。

清酒の研究開発だけでなく、食品、化粧品など幅広い分野で発酵技術を生かしていく取り組みも行っています。

——生酛(きもと)とは何でしょうか?

酒の主成分であるアルコールは酵母の発酵によって生成されますが、この酵母を大量に純粋培養する工程が「酛(もと)」です。酒造りの“もと”になることから酛、また、お酒の母という意味合いから酒母(しゅぼ)とも呼ばれます。水と米と米麹をよくすり合わせ、乳酸菌の力を借りて乳酸を生成します。昔ながらの手作業で4週間かけて造り上げる、酒造りの原点と言えますね。

生酛で育った酵母は、発酵力は穏やかであるものの、発酵末期まで力を維持するため、糖分を消費し、できあがったお酒は辛口の酒質となります。さらに、醪(もろみ)末期のアルコールが非常に多い環境下でも死滅しにくいため、菌体内から漏出する成分が少なく、きれいな酒質となります。

生酛造りは通常の倍以上の時間と手間がかかり、安定的に行うことも極めて難しいため、これを伝承してきたのは、菊正宗を含めて数蔵しかありませんでしたが、近年は酒質の多様化をめざして挑戦する蔵も増えつつあります。

日本酒の作り方

引用:https://www.kikumasamune.co.jp/toshokan/01/01_05.html

麹…麹はカビの一種である黄麹菌(きこうじきん)を蒸米の表面から中心部分へと繁殖させたもので、デンプン分解酵素、タンパク分解酵素、脂肪分解酵素など、様々な酵素の供給源として用いますが、特に重要なのはデンプン分解酵素であるアミラーゼで、米のデンプンを分解しブドウ糖に変える働きを持ちます。そのブドウ糖を清酒酵母が利用してアルコール発酵を行います。麹菌が生育する過程で蓄えられる様々な成分は、のちに醪(もろみ)中に溶け出して、清酒酵母の栄養源となるだけでなく、お酒の旨味成分として酒質に大きな影響を与えます。

酒母(酛)…清酒酵母のアルコール発酵を促進する乳酸を得るために作る。生酛で作った酒母は、既成の乳酸を添加する速醸系酒母に比べ、乳酸菌のほか様々な微生物の働きにより、アミノ酸やペプチドが多くコクのある味わいになります。

醪(もろみ)…清酒酵母がアルコールを生成する工程。酵素の力で蒸米のデンプンがブドウ糖に分解されるだけでなく、各種アミノ酸、ペプチド、有機酸などが生成されます。清酒酵母はアルコール発酵を中心に様々な香味成分を造り出していきます。

精製・熟成…熟成醪を圧搾機に入れて液体部分(新酒)と固形部分(酒粕)に分離、ろ過し火入れで殺菌・酵素を破壊した後、タンク内で半年間熟成させます。

引用:https://www.kikumasamune.co.jp/rd/theme/kimoto/1_ethanoltaisei/ethanoltaisei.html
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引用:https://www.kikumasamune.co.jp/rd/theme/index.html

菊正宗総合研究所では、様々なテーマで酒造りに関する研究が行われています。

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