警視庁組対4課元管理官の「マル暴刑事」が明かす暴力団捜査秘史

櫻井裕一氏 インタビュー
伊藤 博敏 プロフィール

最後まで付き合う「覚悟」

――関わったホシ(犯人)を「無縁仏にはしない」と、取調室で向かい合った被疑者の入れ墨の写真を撮っていました。

40年以上前、三代目山口組の田岡一雄組長の襲撃犯が、指紋などがすべて消され、惨殺体で発見されましたが、唯一、背中の天女の入れ墨が科学捜査で判明、本人確認ができました。それがきっかけで始め、捜査現場を離れるまでに、約150人の写真ファイルができた。ホシと最後まで付き合うという私なりの覚悟でもありました。

――取調室の真剣勝負は同じでも、捜査手法は変わり、制約が多くなったと聞きます。

取調室は、ホシにとってタバコが吸えて息抜きができる場でした。でも、今は、利益供与にあたるからと、タバコはもちろん飲食も禁じられています。『カツ丼を取ってやる』なんて、昔のドラマの世界です。

櫻井裕一氏
 

――バブル期の暴力団には勢いがあった。彼らの経済的な絶頂期をご存知です。

(最初の赴任地の)40年前の赤羽は、(縁日などの行商を起源とする)的屋の極東会、(賭博の胴元が本業だった)博徒の稲川会や住吉会などが、激しく争っていました。そこに愚連隊が加わり、さらに中国系や韓国系のマフィアもいる、といった混沌とした状況でしたが、それだけ暴力団に勢いがあり、シノギが多く、豊かでした。

――今は、様変わりです。暴力団が食えない時代となり、構成員数も激減です。

銀行口座を持てない、家を借りられない、ガスも止められる、といった状況では、ヤクザになろうという人間がいなくなるのも当然です。でも、単純には喜べません。今は、振り込め詐欺の出し子(現金の引き出し役)やかけ子(電話をかける役)が、どこの組織の誰がリーダーかをまるで知らない。巧妙化、マフィア化しており、その状況はさらに強まるでしょう。

***

暴力団構成員数は、毎年、数千人単位で減り続け、昨年末は、2万5900人だった。1万人割れは目前で、近い将来、盃を交わすことで擬似の親子、兄弟関係を築き、日本社会に一定勢力を誇った「暴力団」という存在が、なくなってしまうかも知れない。それは、国家をあげての規制強化と、櫻井氏ら「マル暴」の私生活を犠牲(実際、新宿署の組対課長時代はほとんど新宿署に住んでいた)にした努力の集積だろう。

反社会的勢力による犯罪がなくなることはないが、暴力団犯罪は確実に縮小する状況にあって、本書は暴力団犯罪の貴重な「備忘録」ともなりそうだ。

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