日米韓の共同会見“中止騒動”…何が起きていたのか、その「顛末」

文政権の大統領府は外交を軽視?
牧野 愛博 プロフィール

「内政分野」担当の力が強い文政権

ただ、文在寅政権は日本だけを狙い撃ちにしているわけでもない。

韓国は9月15日、独自に開発した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験に初めて成功した。だが、この時、中国の王毅国務委員兼外相が韓国を訪問中だった。

SLBM発射実験は、忠清南道安興沖のミサイル実験場で行われた。ここは対岸に中国を望む黄海に位置する。前日の14日には中国外交部報道官が韓国のSLBM実験の可能性について「関係国が共同で、地域の平和や安定、発展を維持するよう努めることを望む」とコメントしたばかりだった。当時、関係国からは「韓国は北朝鮮政策で中国の助けを借りたいはず。なぜ、王毅の訪韓中にわざわざ、中国を刺激する実験を行ったのだろう」といぶかる声が出ていた。

関係者らの証言を総合すると、文在寅政権の青瓦台(大統領府)スタッフには、こうした外交・安全保障について調整する意欲と能力が不足している。大統領府では政務や民情など、内政分野の担当者の力が強く、外交安保を手がける国家安保室の発言は軽く見られやすい。

外国との関係よりも、政権の支持者の意向をまず考えるため、日韓慰安婦合意を破棄しようとしたほか、徴用工判決では「対話の門が開いている」と言うばかりで、日本側を納得させる譲歩案を提示せずにいる。

最近では、休戦状態にある朝鮮戦争の終戦宣言をやろうと、日本や米国に持ちかけている。日本政府関係者の1人は「北朝鮮が新型のミサイルをどんどん発射しているときに、終戦宣言をやるなんて考えられない。終戦宣言は非核化の入り口になるというロジックは、外交的に論理的な説明だとはとても言えない」と語る。

 

元々、スタッフの主力である「586世代」(50代で、1980年代に大学に入学した1960年代生まれの人々)は、学生運動に身を投じた人が多い。敵役の軍事独裁政権は安全保障を米国、経済を日本に頼っていた。586世代は、韓国外交の重要なパートナーである日米との関係が薄く、必然的に外交や安全保障を軽く見る傾向が身についてしまった。米政府の元当局者は「韓国ほど、民主化が進んだ現代国家で、NSC機能が働かないケースは珍しい」と語る。

文在寅大統領が秘書室長を務めた盧武鉉政権でも、外交安保部門は軽んじられる傾向にあった。ただ、それでも風通しが良い政権だった。韓国大統領府は大統領執務室のある建物と秘書官たちが執務する建物が別々になっている。秘書官たちが大統領に報告するときは、いちいち車に乗って検問を通過して出向く必要がある。

盧武鉉氏はこれを嫌い、自ら大統領執務室の分室を秘書官たちのいる建物内につくって風通しを良くした。会議でも、課長級など実務者に発言をさせた。このため、大統領の目が、埋もれてしまいがちな外交安保分野にも行き届いていたという。

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