「うちは、
母、80歳、認知症。
姉、47歳、ダウン症。
父、81歳、酔っ払い。
ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。46歳。独身、行き遅れ。
全員ポンコツである」

そんな書き出しから始まったにしおかすみこさんの連載第3回。
にしおかさんといえば、「あたしだよっ」「にしおか~すみこだよっ」とSMの女王様風の衣装に身を包んだ漫談で人気を博した芸人だ。

そんなにしおかさんは2020年、コロナで緊急事態宣言が出た頃に実家に久々に戻ったとき、変わり果てた家の姿や親の様子に驚愕。実家に暮らすことに決めた。そして、愛をこめて自分を含めた家族を「ポンコツ」と呼ぶ。その様子をリアルに、しかしユーモアを忘れずに伝えた文章が、「他人事とは思えない」「壮絶な状況をユーモラスに描いていてすごい」と大きな話題となったのである。
そして同時に「認知症の介護は大変。きちんと自治体のサポートを受けてほしい」という意見も多く寄せられた。

介護のサポートを受けるには、医師より認知症だという診断を受けなければならない。しかし、認知症であろうと思われる人を病院に連れていくことから苦労している人も多いのだ。にしおかさんはどのようにしたのだろうか。

他人事とは思えないという言葉が多く寄せられた第1回
にしおかすみこ連載「ポンコツ一家」今までの連載はこちら
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2020年6月のこと

1年前の6月14時過ぎ。
母を精神科に連れて行こうとしていた。
今後のためにも認知症かどうかの診断が必要だと思った。

「あー! 行ってやらあ! どこにでも連れて行って煮るなり焼くなり好きにしたらいいさあ! 出るとこ出て腹かっさばいて散ってやらあ!」

……もう……後半、どこぞの侍だ。
気分で言うことが変わる。行くと言ったのは初めてだ。
チャンスだ! 即、病院に予約を入れタクシーを呼び、やけくその母を後部座席に押し込んだ。

奥のシートベルトをグイっと引っ張り母に掛けようとした。
「やめ! 触るな! 二度と触るな! 自分でやる!」と引ったくった母の手は汗でぐっしょり冷たかった。皺々のずぶ濡れた手が隠れて大泣きしているようでならなかった。

私のやっていることはあっているのか。
20数年ぶりに戻った地元で勝手がわからず、ネットで検索しただけの病院だ。
到着し受付で検査希望の意向を伝え、広く空いた長椅子に座ると、母が悪態をつきながらピッタリくっついて座って来た……。
究極のツンデレを味わう。

Photo by iStock

悪だくみの匂い

母が周りを気にしながら声を落とす。ヒソヒソと、でも語尾は強くよく通る。母は内緒話が苦手だ。
「よく聞きな! ママ糖尿だけど先生には隠すから、あんたも言うんじゃないよ!」と。

急に悪だくみの匂いがする。
「……何で?」

「これだから素人は! 糖尿病と鬱とボケはセットだから。年相応の老いなのに、そんな先入観で見られたくないから」

そんな手荒い3点セットがあるのか……?
割合としてそういった傾向が多いということか?

母はずっと看護師だった。特に精神科で働いている期間が長かったからだろうか……。
どうやら元ベテランは認知症の診察というものを心得ている様だ。

ただ私の素人目には、母はその3点セットを既に持っているように見える。
「事実を言うよ。全部言わないと正しい判断してもらえないじゃん」

「嘘も方便って言うでしょ。よくもそんなガッチガチの頭で生きてこれたね」

「……」