2021.11.19
# エンタメ

自作曲はYouTube上で1777万回再生、小説は11万部の大ヒット…「カンザキイオリ」とは何者なのか

飯田 一史 プロフィール

好きなことをやっても傷付くし、裏切られることもある。でも…

YouTube「不器用な男」(https://www.youtube.com/watch?v=rtHi7P5tb_s)より

――カンザキさんのように音楽と小説を両方手がけていると、受け手からすると小説を読むことで曲の印象が深まる、曲を聴くことで小説のワンシーンがよみがえる、といった相乗効果があると思いますが、ご自身としてはどういう狙いがありますか。(「不器用な男」https://www.youtube.com/watch?v=rtHi7P5tb_s

カンザキ 狙い……いや、具体的に何か狙ったというよりも、「爆弾」と「不器用な男」という曲をつなげられたらおもしろいと思いつき、そこからさらに小説を書こうと思ったときに頭にあったのは単純に「楽しそうだな」ということが一番でした。

――楽しそうだと思ったのが一番だったとのことですが、作中では春樹と図書室で出会った穂花との間で「穂花さんは漫画家になりたいの?」「全然?」「え? なんで?」「未来なんて、どうでもいいよ。今やりたいことを、好きなこと好きにやって、何が悪いの」というやりとりがあります。「将来どうするのか、そのために何をするのか」と「今やりたいこと、楽しいことをやる」のどちらに振れるのかは、進路を考える年齢では一度は悩むことですよね。

カンザキ 自分のことを振り返ると「将来、絶対にこれになろう!」という職業があったかと言うと、もっと適当でした。ただ漠然とずっとボカロPとしての活動は続けていきたいとは思っていて、やめなかった結果、たくさんの方々とのご縁で今ここに立てています。

だから、彼らよりは適当ではあるんですけど、でも「好きなこと、やりたいことをやり続けるのがベストだ」という考えは小説の子たちといっしょで、そのために私は地元から東京に来た感じがします。誰にも縛られず、やりたいことをやれると思ったから。

今回の小説は大きなテーマとして「好きなことを好きと言うのはどういうことなのか」に重きを置いた作品ですので、好きなことへの向き合い方に悩んでいる方々……主には学生や20代前半の方々に届いてほしいなと思って構想を固めていったものではあるんですけれども、年代が私より上の方々の背中も押せる作品になれたらと思っています。

 

――「好きなことで、生きていく」とはよく言われますが、『親愛なるあなたへ』での春樹にとっての小説、雪にとっての音楽は、単純に「救い」ではなく、ふたりとも小説や音楽をやっていなかったら苦しまなかったであろうことを突きつけられますよね。

カンザキ 私も音楽という好きなことが仕事になった人間ですが、いくら好きでも傷つくこと、嫌だと思うことはあります。ただ――私も時間はかかってしまったんですけれども、「それでも音楽が好きだ」と受け入れることができたという感覚があって。だから、好きなことに対して裏切られたり、つらい想いをして「好き」と言えなくなってしまった人にこの小説が届けばいいな、と。

――『あの夏』では、主人公の千尋が自殺した流花の幻影を追い続け、やっと瑠花という女性に会えたと思ったら突き放され、『親愛なるあなたへ』でも、ある人物が憧れのクリエイターに会えたと思ったら突き放されますよね。理想や願望と現実とのあいだの落差を突きつけられて幻想が崩れ去ってから、本当の関係が始まる。これは今の「好きなことを追っても傷つく、それでも好きだ」に通じる気がします。

カンザキ 現実は理想のようなものではなくて、人によっては厳しい環境や過去があって……それでも立ち向かわないといけないときもあって。そのなかでどう考えて生きていくのか。私の作品では負の感情やハッピーな感情を強く前面に出していますが、そういう感情は、現実世界に必死に立ち向かっていくときに沸いてくるものなんですよね。

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