「筋肉」の新たな進化が始まった

2種のタンパクとオリガミで「分子人工筋肉」を実現
藤崎 慎吾 プロフィール

図らずも軟体動物レベルの筋を実現

さて、もともとの狙いではDNAオリガミにくっついた数十本の微小管が、天然サルコメアのアクチンフィラメントのように整然と並ぶことが期待されました。何か条件がよければ、そうなった可能性もあります。しかし実際にやってみると四方八方に微小管が突きだして、まるで「ウニ」のような姿になりました。

ただ、これはこれで私たちの内臓や軟体動物に見られる平滑筋の一部分と似ています。平滑筋でも「デンスボディ(濃密体)」と呼ばれる構造を中心にして、アクチンフィラメントが不規則に突きだしているからです。

DNAオリガミと微小管のウニをたくさんつくって、やはり多数のキネシン四量体をそこに混ぜてやると、ゆるやかなネットワーク構造ができました。別々のウニから突きだした2本の微小管を、キネシン四量体の4つの頭がつかまえて、重ね合わせたからです。これも平滑筋のアクチンフィラメントの間にミオシンフィラメントが入って、ネットワーク状になっているのとよく似ています。

【イラスト】内臓の平滑筋と分子人工筋肉を比較したイメージ内臓の平滑筋(左)と分子人工筋肉(右)を比較したイメージ figure by Akinori Kuzuya and Akira Kakugo

研究チームは人工の横紋筋をつくろうとして、図らずも筋肉の進化を最初からたどり始めたのかもしれません。単に微小管とキネシンを混ぜただけの状態がアメーバ段階だったとすれば、クラゲか軟体動物の段階には達したと言えるでしょう。

このウニとキネシン四量体のネットワークにATPを加えてみると、不規則に広がっていたのが、見事に全体の中心へと収縮しました。微小管の重なりが、キネシンの動きによって深くなったからです。その様子をとらえた映像は100倍速になっていますが、それを割り引いても、目で見ていて何とかわかるくらいの速度です。微小管とキネシンだけを、ただ混ぜてATPを加えた時より、18倍も速かったそうです。

「あれ、もともと1ミリメートルくらいの長さだったのが、数百マイクロメートルくらいに縮まっています」と葛谷さんは言います。「キネシンの長さが50ナノメートルだとすると、その1万倍ほどの変化が出ているわけです。もしキネシンが1メートルの人だったとしたら、10キロメートルくらい先にあるものを、目に見える速度でぎゅっと持ってきていることになる。これはすごいぞ、という話になってきます」

【図】分子人工筋肉が収縮するメカニズム分子人工筋肉が収縮するメカニズムの模式図。DNAオリガミにDNAを生やした微小管をくっつけるとウニのような構造になり、別々のウニから突きでた微小管をキネシン四量体が重ね合わせるとネットワークができる。そこにATPを加えるとキネシン四量体によって微小管の重なりが深くなり、全体が収縮する figure by Akinori Kuzuya and Akira Kakugo
分子人工筋肉にATPを加えた様子(上)と、DNAオリガミを使わず微小管とキネシン四量体を混ぜただけのものにATPを加えた様子(下)。どちらも収縮するが、分子人工筋肉のほうがずっと素早く、より小さく縮む。動画の右下にあるスケールバーの長さは1ミリメートル movies by Akinori Kuzuya and Akira Kakugo

関連記事