「筋肉」の新たな進化が始まった

2種のタンパクとオリガミで「分子人工筋肉」を実現
藤崎 慎吾 プロフィール

材料を変えてパワーと効率をアップ

前回もご登場いただいた関西大学 化学生命工学部教授の葛谷明紀(くずや・あきのり)さんと、北海道大学大学院 理学研究院 化学部門准教授の角五彰(かくご・あきら)さんを含む研究チームは、以上のような筋肉の機構に着想を得て、天然とは別の物質で人工筋肉をつくれないかと考えました。

この時、着目したのがアクチンとミオシンによく似た関係をもつ、微小管とキネシンです。別のプロジェクトでしたが、葛谷さんと角五さんらは、この2つのタンパク質にDNA(デオキシリボ核酸)を組み合わせて「分子群ロボット」をつくったことがあります(詳しくは前回〈ミミズのように這い、群れ集う「タンパク質」〉(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/88499)をご参照ください)。そのノウハウが活かせそうです。

またキネシンにはミオシンと同等以上のパワーがある一方、微小管はアクチンフィラメントの3倍くらい太くて丈夫です。そこで「足場」がしっかりしているぶん、天然の筋肉より大きな力を出せるのではないかと、研究チームでは考えました。

【CG】微小管の上を歩くキネシン細胞内で物質を運ぶため、微小管の上を歩くキネシンのイメージ(緑色の部分)。上下を逆さまにしたカイワレ大根に似ている photo by gettyimages

一方、これまで研究されてきた人工筋肉は合成樹脂や有機材料などを使い、空気圧や電気などで動かしていました。これらは大きな力を出せても、まだ効率が悪くて多くのエネルギーを必要とし、大がかりになってしまうこともあります。柔らかい動きができるメリットはあっても、あまり普及していないのは、そのためかもしれません。そこをナノサイズで、しかも効率のよいタンパク質などの生体分子を使えば、解決できる可能性もあります。

微小管とキネシンでサルコメアをつくる

微小管とキネシンを一定の比率で混ぜて、そこにATPを加えるだけでも、全体的に網目状の構造をつくりながら、あちこちで収縮が起きます。しかし収縮は遅く方向性もないので、それだけでは動力として使うことができません。そこで研究チームは、まさに横紋筋と同じようなサルコメアを、微小管とキネシンでつくることにしました。

この時に使われたのが、やはりDNAです。分子群ロボットの時には、微小管を群れさせるために、一本鎖のDNAで「橋渡し」をしました。今回はもう少し複雑で、二本鎖(二重らせん)のDNAを6本チューブ状に束ね、その側面から合計で39本の一本鎖DNAを生やしました。長さは390ナノメートル、太さは6ナノメートルくらいです。

これは「DNAオリガミ」と呼ばれ、本来は遺伝情報の媒体であるDNAを、まるで建材のように使い、様々な構造物をつくる技術の応用です。葛谷さんは、この技術の専門家で、あたかもペンチのように分子をつかめる複雑なオリガミをつくったこともあります。

【図】DNAオリガミでつくられた構造の模式図DNAオリガミでつくられた構造の模式図。青い円柱の1本1本が二重鎖のDNAを表している。それを6本チューブ状に束ね、側面から3方向に合計39本の一本鎖DNAを生やした figure by Akinori Kuzuya and Akira Kakugo

研究チームは分子群ロボットをつくった時と同じ方法で、微小管のほうにも一本鎖のDNAをくっつけました。このDNAは、さきほどのDNAオリガミに生えた一本鎖DNAに出会うと、絡み合って二本鎖をつくるようにできています。すると微小管自体もDNAオリガミに固定されてしまいます。つまり最多で39本の微小管が、オリガミの管を中心にして並ぶことになるわけです。

一方でキネシンも1本1本ばらばらのままではなく、4本を「X」のような形をした一つの構造にまとめました。中心には「ストレプトアビジン」という特殊なタンパク質があり、そこからカイワレ大根が葉を上にして4方向に生えているような感じです。これを「キネシン四量体」と呼んでおきましょう。

関連記事