「筋肉」の新たな進化が始まった

2種のタンパクとオリガミで「分子人工筋肉」を実現
藤崎 慎吾 プロフィール

「リニアモーター」で動く筋肉

人間を含む脊椎動物の筋肉には、構造から「横紋筋」と「平滑筋」の2種類があります。横紋筋には上腕二頭筋など馴染み深い「骨格筋」と、心臓を動かす「心筋」とがあります。平滑筋は内臓や血管などを動かしています。

「筋肉の束」という言葉もよく耳にしますが、実際、横紋筋は多数の「筋線維(筋細胞)」が束になってできています。筋線維は細長い細胞で、直径10〜100ナノメートル(髪の毛の1000分の1以下)、長さは数センチメートルから数十センチメートルと様々です。筋線維は複数の「筋芽細胞」が融合したものなので、普通の細胞には核が1個しかないところを複数持っているという特徴があります。

筋線維の内部では、無数の「筋原線維」が束になっています。1本の筋原線維の直径は1〜2ナノメートルで、これがミオシンとアクチンでできています。筋原線維は長さ方向にいくつかの区画に分かれており、それぞれの区画は「サルコメア(筋節)」と呼ばれています。このサルコメアが筋収縮の最小単位と言えます。

【イラスト】横紋筋の構造横紋筋の構造 illustration by gettyimages

サルコメアの中では、二重らせん状で細長いアクチンのフィラメント(線維)と、束になった無数のミオシンからなる太いフィラメントとが、互いちがいに半分重なりながら、平行に並んでいます。

たとえ話をすると、ゆるく束ねた太いそうめん(乾麺)が1束、やはりゆるく束ねた細いそうめんが2束、目の前にあると思ってください。そして太いそうめん束の両側から、細いそうめん束を、それぞれ4分の1くらいまで差しこみます。大雑把に言えば、これがサルコメア内部の状態です。それぞれのフィラメント(そうめん)は、お互いの隙間を滑りあって動ける状態になっています。

ミオシンフィラメントは、乱暴にたとえると逆向きにした2本の「試験管ブラシ」を柄の部分でくっつけたような形をしています。ブラシの1本1本の毛が、ミオシン1本1本の「頭」の部分に当たります。

ミオシンはカイワレ大根のような形をしていて、頭は2枚の葉のように見える部分です。1本のミオシンがアクチンをたどって物質を運ぶ時には、その2枚の葉で歩くように移動します(この点は前回お話ししたキネシンと非常によく似ています)。

しかしサルコメアで束になった無数のミオシンは、ATP(アデノシン三リン酸)という燃料を得ると、まるでボート競技の選手たちがオールを漕ぐように頭を振り始めます。そして隣のアクチンフィラメントを、サルコメアの左右から中央へたぐり寄せていきます(ただしボート競技のように息を合わせることはなく、動きはばらばらです)。すると、それぞれのフィラメントは滑り合って重なりが深くなり、結果的にサルコメアが縮んで、それが筋全体に及ぶと筋収縮になるわけです。

【イラスト】サルメコアの弛緩と収縮サルコメアが弛緩している状態(上)と収縮している状態(下) illustration by gettyimages

モーターには回転運動をするものと、直線運動をするものとがあって、後者を「リニアモーター」と呼びますが、サルコメアはナノサイズのリニアモーターと言えるでしょう。ただし1方向に動く(縮む)だけで、自力で元の状態には戻れません。

「筋の起源」はクラゲ? アメーバ?

まだ議論はありますが、以上のような機構をもつ横紋筋は、進化の上では比較的、新しくできた筋肉と言われています。一方で平滑筋は、どちらかというと原始的な特徴を残しており、サルコメアのような整然とした構造を持っていません。筋細胞は核が一つで、線維状ではなく紡錘形をしています。その中にアクチンフィラメントとミオシンフィラメントが、不規則に並んでいます。しかし整然とはしていないながらも重なり合ってはいて、縮む原理は横紋筋と同じです。

【図】平滑筋の模式図平滑筋の模式図。(A)血管の壁にある平滑筋、(B)平滑筋の筋細胞が弛緩している状態、(C)縮んだ状態、(D)筋細胞の一部を拡大 figures by gettyimages

人間を含む脊椎動物は動きまわるのに横紋筋(骨格筋)を使っていますが、貝類などでは移動にも平滑筋を使っています。軟体動物の彼らには骨や関節がないので、拮抗筋というのもありません。なので、いったん縮んだ筋を元に戻すのは、体の内圧ということになります。我々の消化管や血管を動かす平滑筋にも同じことが言えます。

ところで私たちは、なぜ「古い」平滑筋を今でも使っているのでしょう?

横紋筋は規則的な構造をしているため素早く、力強く、正確に縮むことができます。一方で、その構造の制約ゆえに可動域が比較的、狭くなっています。これに対して平滑筋は構造がゆるいため、素早く正確に縮むことはできませんが、広い範囲で力を発揮できます。骨格がなくて不定形な軟体動物や内臓などを動かすには、こちらのほうが適していると考えられています。中身によって形が変わったり、大きく膨らんだりしても、平滑筋は普通に動けるからです。

詳しくは触れませんが、横紋筋と平滑筋の中間的な特徴をもつ「斜紋筋」というのもあります。脊椎動物の体にはないのですが、貝類と同じ軟体動物のイカやタコ、あるいはミミズやゴカイといった環形動物などに見られます。諸説ありますが、筋肉は「平滑筋→斜紋筋→横紋筋」というように進化していったと考えられるようです。

【写真】クラゲクラゲの筋肉は皮膚の機能も兼ねている photo by gettyimages

軟体動物よりさらに原始的なクラゲやイソギンチャク(刺胞動物)も、それなりに泳いだり、伸び縮みしたりします。彼らの体にも平滑筋に似たアクチンとミオシンのゆるい構造が見られ、皮膚の機能も兼ねた「上皮筋細胞」と呼ばれています。このあたりが「筋の起源」かもしれません。

もっとも、さらにさかのぼれば、アメーバのような単細胞生物も、すでにアクチンとミオシンを移動や変形に使っています。

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