人類進化の年代を測る科学のモノサシ「年代測定法」が明らかにしてきたものとは

トリノ聖骸布の謎をも解き明かした!
米田 穣 プロフィール

放射性炭素と加速器質量分析

現代人の年代を調べるときにもうひとつ便利な放射性元素が、放射性炭素(炭素14)です。

1940年代後半にシカゴ大学のウィラード・リビーによって発見された放射性炭素は、5730年という半減期をもっています。これを使うとおよそ5万年前までの年代を正確に測ることができます。また、炭素は私たち生物を構成する主要元素であり、動物や植物に含まれていることから、遺跡で見つかる木炭や貝殻、動物の骨などで年代を測ることが可能です。

しかし、炭素14は、現代の炭素でも原子1兆個当たりひとつしかない非常にまれな同位体です。時間とともに減少するので、古い試料ではますます測定が困難になります。

リビーが炭素14を発見して以来、多くの場合はそこから発生する放射線(β線)を測定して、時間当たりの放射線量から炭素14の量を計算する方法が行なわれてきました。炭素1gにはおおよそ5×1022個の原子が含まれていますが、そこからβ線がでてくる割合はわずかで(1分間でおよそ14回)、精度のよい測定をするには数日から数週間が必要となるうえ、貴重な遺物から純粋な炭素を1g集めることは容易ではありません。

【図】同位体と加速器質量分析法【炭素同位体(上)】原子核に含まれる中性子の数は違うが、電子の数は同じ 【加速器質量分析法】炭素の結晶であるグラファイトが負の電気を帯びたイオンにされ、数百万ボルトの正の電圧に向かって加速される。加速器部分では負から正へと変換されることで、反発力が生じてさらに加速され、ひとつひとつの原子でも測定できるレベルの高エネルギーとなる。拡大画像はこちら illustration by saori yasutomi

しかし、 炭素14は原子1兆個にひとつしかない珍しい同位体ですが、現在の炭素には1g当たり500億個の炭素14が含まれます。この数を直接数えることができれば、ずっと少量の炭素でも年代を測定することが可能になります。それが加速器質量分析法です。

高電圧を発生させる加速器を使って高エネルギーにして、通常では測定できないひとつひとつの原子でも検出器で測定することを可能にしたのです。この新しい装置のおかげで、わずか1/1000gの炭素でも、年代が測定できるようになりました。

「トリノの聖骸布」はキリストを包んでいたか? 

加速器質量分析法の威力が示されたよい例に、「トリノの聖骸布(せいがいふ)」の年代測定があげられます。イタリアのトリノ大聖堂に保管されている長さ4mになる麻布には、白黒が反転した人物像がぼんやりと写っています。この姿が、磔はりつけからおろされたイエス・キリストの姿に見えることから、キリストの聖なる遺骸を包んだ布であるといい伝えられてきました。

【写真】トリノの聖骸布トリノの聖骸布 photo by gettyimages

1987年にこの麻布から数cm四方の布が切り取られました。この試料は3つに分けられ、厳重に封印をした上で、イギリスのオックスフォード大学、アメリカのアリゾナ大学、そしてスイスの連邦工科大学という3つの加速器質量分析の研究室に送られました。

そしてそれぞれの研究機関で得られた年代測定の結果は、西暦1260年から1390年のわずか130年の幅におさまったのです!

この結果は、歴史上の記録に聖骸布が登場する時期と一致します。もしも本当にキリストを包んだ布ならば、約2000年前の年代になるはずです。もちろん宗教的な価値がこの年代測定の結果で否定されたわけではありませんし、どのようにして影が反転した像が布に描かれたのかは大きなミステリーです。

しかし、新しい年代測定の方法によって、この人物像がキリスト本人であった可能性は低いことが明らかになり、加速器質量分析法の威力が広く知られるようになりました。

図解 人類の進化 猿人から原人、旧人、現生人類へ

編・著 斎藤 成也/著 海部 陽介、米田 穣、隅山 健太

化石や遺伝子の研究から、われわれ人類の進化の過程が明らかになってきました。第一線の研究者たちが、進化の基礎からゲノムの話題まで、豊富なイラストを使って、初心者にもわかりやすく解説します。2009年に刊行した『絵でわかる人類の進化』に加筆修正した新書版。

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