人類進化の年代を測る科学のモノサシ「年代測定法」が明らかにしてきたものとは

トリノ聖骸布の謎をも解き明かした!
米田 穣 プロフィール

KBS凝灰岩の年代をめぐる議論

ケニア北部のクービ・フォラは、これまで数多くの人類化石が発見され、その研究ではカリウムとアルゴンによる年代測定は重要な役割を果たしました。

とくにKBS凝灰岩とよばれる堆積の下層からは、保存状態のよいホモ・ハビリスやホモ・ルドルフェンシスの化石が発見され、上層からはホモ・エルガスタとパラントロプス・ボイセイが見つかっており、東アフリカの初期ホモ属の進化を考える上で、KBS凝灰岩はまさに鍵となる地層と考えられるようになりました。

【図】KBS凝灰岩の層KBS凝灰岩の層は人類進化学の鍵とされた photos by gettyimages

しかし、1970年にロンドン大学のフィッチたちによって測定されたKBS凝灰岩の最初の年代は、火山灰の軽石や長石の分析から、261万年前という年代値を得ました。

この年代が本当ならば、それよりも下層から出土したホモ・ルドルフェンシスはもっと古い年代になるはずです。KBS凝灰岩の年代にもとづいてホモ属が誕生したのは290万年前ごろだろうと推定され、その年代をもとに初期ホモ属の進化が議論されはじめたのです。しかし、年代の研究が進んでいたオモ川の動物相との対比から、この年代は少し古すぎるのではないかという反論がなされました。

1975年、アメリカのカーティスらは、カリウム・アルゴン法による160万年前と182万年前という年代値を示した一方、岩石に含まれるウラン238によって結晶につくられた飛跡を数えることで年代を決定するフィッション・トラック法では244万年前というフィッチらの値を支持する結果を示しました。

その後、1980年カーティスによるふたつのカリウム・アルゴン年代は、カリウム測定不備による不正確な年代が含まれていることから180万年前と訂正されるとともに、187〜189万年前という分析結果が発表されるにいたり、現在では微量で測定できるようになったアルゴン・アルゴン年代測定による188万年前という年代値を裏付けとして、KBS凝灰岩層の年代として認められています。

年代値決定までの迷走、原因は?

それでは、どうして間違った古い年代が正しいものだと考えられたのでしょうか?

ひとつは、フィッション・トラック法で飛跡の認定やウラン238の崩壊定数などに研究者間の統一がとられていなかったなど、年代測定の方法に未熟な側面があり、先に発表された年代値に引きずられる解釈をしてしまったことがあげられます。

さらに、KBS凝灰岩と考えていた試料が、実は異なる火山灰に由来したことも明らかになりました。測定精度の向上だけでは、正確な年代を得ることができないというよい教訓です。その後、アルゴン・アルゴン年代測定では、レーザーを用いて結晶ひとつひとつのアルゴン同位体比を測定する単結晶レーザフュージョン法が実用化され、より信頼性の高い年代を得ることが可能になりました。

しかし、どのような試料が適切かということと、異なる年代測定方法の実際と限界をよく理解した上で総合的なアプローチをすることが年代決定では重要であることを、この論争は教えてくれます。年代測定にかかわる諸科学は、まさに「年代学」というべき複合領域を形成しているのです。

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