人類進化の年代を測る科学のモノサシ「年代測定法」が明らかにしてきたものとは

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人類の進化を理解するための最大の情報源は、人骨の化石です。化石を古い順番に並べていくことで、人類の顔や体の構造がどのように変化してきたのか、あるいはどのような環境の変化に対応してきたのかを読み解くことが可能となります。それでは、どのようにして化石の順番を決めればよいでしょうか?

同じ場所で出土した化石ならば、下の地層のほうが古いという地質学の原理を応用できます。あるいは、一緒に出土する動物の化石が手がかりになるかもしれません。しかし、その地層や化石が何万年前のものであるかを知るためには、どうすればよいのでしょうか?

こうしたときに化石や遺跡の年代を決定する方法を、年代測定とよびます。人類進化学史上、ポイントとなった年代測定法のいくつかについてお話しします。

天然の砂時計「放射性同位体」

放射性元素には、砂時計のように時間を測ることに応用できるという性質があります。ウランやカリウム、炭素などといったさまざまな放射性元素が、年代測定で利用されています。

放射性元素というのは、不安定な原子核が放射線をだしながら別の元素に変化する性質をもつ元素のことです。物質を構成している元素の内部には原子核と電子が存在します。さらに原子核の内部には、正の電気を帯びた陽子と帯電していない中性子という2種類の粒子が含まれます。そして、同じ元素中に存在する、重さ(原子核に含まれる中性子の数)が異なる原子を同位体とよんでいます。

炭素や酸素といった元素の化学的な性質は、原子核の周りを飛び回っている電子の数で決まります。同位体では、原子核の重さは異なりますが、電子の数は同じなので物質としての性質には違いがありません。しかし、中性子の数が増えていくと、原子核が安定でいられる条件が少しずつ崩れていきます。不安定になった原子核は、原子を構成する粒子を放出しながら違う元素に変化していきます。このような現象のことを放射壊変といい、この崩壊で飛びだしてくる粒子のことを放射線とよびます。

ある放射性元素がいつ放射壊変するのかを、物理的に予想することはできません。しかし、放射性元素を集団で見てみると、ある統計的な法則があることが知られています。どの元素が崩壊するかはわからないのですが、集団で見てみると一定の時間で半分が壊変するというおもしろい性質です。それぞれの放射性元素には、半分になる特有の時間があるので、この時間を半減期とよんでいます。

【図(イラスト)】ウ ランの壊変系列のイメージウランの壊変系列のイメージ illustration by saori yasutomi

人類の歴史を測るための"精密スケール"

放射性元素の半減期には、数十億年という長いものから、数秒の短いものまであります。ウランやトリウムといった半減期の長いものは、数十億年単位の岩石の年代決定には有力な道具になります。しかし、数百万年という単位の人類の進化を調べるには、もっと半減期の短い、精密なものさしが必要です。そこで着目されたのが、半減期12.5億年のカリウム40と、それに由来するアルゴン40の組み合わせによる「カリウム・アルゴン法」です。

【図】カリウムの蓄積カリウムの蓄積 illustration by saori yasutomi

アルゴンは気体なので、岩石が溶解していると大気へと放出されます。そのため、どろどろの溶岩が固まってできた火成岩には、もともとアルゴンがほとんど含まれていません。すなわち、火成岩の結晶に含まれているアルゴン40は、岩石ができてからカリウム40の放射壊変によってできたものだと考えられるのです。カリウムは岩石や鉱物に広く存在する元素なので、いろいろな試料で分析できることも好都合です。

カリウム・アルゴン法による年代測定は人類の進化に関して多くの情報を与えてくれました。1959年にオルドヴァイ渓谷で見つかったパラントロプス・ボイセイに、175万年前という年代を与えたのがこの測定法です。この年代値によって、東アフリカが人類進化の中心地として一気に注目を集めたのです。

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