2021.11.19
# 分子

ヤモリはどうして壁を登れるのか?

モノとモノをつなげる不思議な力
ブルーバックス編集部 プロフィール

身近な例でしくみを見てみる

ファン・デル・ワールス力を身近な窒素分子で考えてみましょう。

窒素分子のように同じ原子2つからなる分子では、分子中の電子の偏りは基本的にありません。したがって、希薄な気体の状態では、窒素分子がお互いに干渉しあうことはありません。

ところが、-200度くらいまで温度を下げると、窒素ガスは液体になり、-210度では固体になります。窒素分子には電荷の偏りがないとすると静電相互作用は働かないはずです。どのような力で、窒素分子同士が集合して液体や固体になるのでしょうか?

実は、窒素分子が液体になるまで温度を下げても、電子の動きはほとんど抑えられません。電子が動き回っていると、ある瞬間、電子が分子の中で偏ってしまうことがあります。

長い時間で平均して見れば(a)のように、電子は分子の中に均等に分布しますが、瞬間、瞬間で見ると、電子はむしろ偏って分布していることが多いのです。

(b)のように、ある分子の中で偏りがあっても、分子と分子の間に充分な距離があると、そのちょっとした偏りは、他の分子にほとんど影響をあたえません。

しかし、分子同士の距離が近いと、電子に偏りがでた分子の影響で、隣の分子中の電子も偏り、結果的に分子同士は静電相互作用で引き合うことになります。

【図】【ファン・デル・ワールス力】(a)分子の中に電子が均等に分布した状態 (b)電子に偏りができても、充分に遠い分子には影響がない (c)電子の偏りにより、近くの分子中の電子も偏り、引きつけ合う

このように、本来電気的にまったく偏りのない原子同士でも、距離が近づくことで電子の偏り(分極)によって引き合う力が生じます。この力を「ファン・デル・ワールス力」といいます。

窒素分子は、ファン・デル・ワールス力によって、気体から液体そして固体になるのです。ただ、この力は大変弱いため、分子が激しく動いていると働くことができません。そのため、低温にしないと液化や固化はしないのです。

この弱い力を、途方もない密度に凝集させて働かせているのがヤモリの足指の趾下薄板ということになります。ヤモリが自由自在に壁を登ったり、天井にはりついたりできるのは、化学的な力に秘密があったのです。

ファン・デル・ワールス力について詳しく知りたい方は、こちらの書籍『暗記しないで化学入門 新訂版』(https://gendai.ismedia.jp/list/books/bluebacks/9784065260678)も参考にしてください。

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