自家用車の代用手段は、限りなく少ない
国土交通省はこうした状況を踏まえ、高齢化が進む過疎地域などを対象に幹線バス、コミュニティバス、デマンドタクシーなどの運行や車両購入を支援する「地域公共交通確保維持改善事業」を推進しており、令和2年度には204億円もの予算を積んだが、まだまだ問題解決には程遠い。
また、地方の足として、ITを活用して乗合タクシーや巡回バスなどを自宅前に呼ぶ「スマートモビリティ」も政府の後押しで実証実験を行っているが、財源や人材の確保、高齢者がITを使いこなすリテラシーの問題など、本格導入へのハードルはなかなか高いものがある。
では、世界に目を向けるとどうなのだろうか。高齢化やそれにまつわる移動の課題は日本だけではないはずだ。しかし、日本では実現できない方法で高齢者が安心して免許返納ができるしくみを持っている国が多く存在するというのだ。
日本で「Uber(ウーバー)」といえば出前・宅配サービスのウーバーイーツというイメージがあるが、海外でのウーバーはライドシェアのほうが有名だ。ライドシェアとは自分の車を使って、利用客をピックアップして目的地へ送り届けるサービスだ。
乗車を望む顧客情報などはアプリで確認できるしくみとなっており、ドライバーにとっては自分がこれから移動する中で同じ方向に向かう人を乗せるだけ。空いた席の有効活用で行える無理のない副業として人気となっており、また利用者側もタクシーよりも格安なことが多いので活用する人は多い。高齢者にとっても、安く利用できる車が増えたことで移動の心配もないことから、免許の返納を検討できる。
海外ではウーバー以外にもアメリカのLyft(リフト)、シンガポールのGrab(グラブ)、中国のDiDi(ディディ)などが参入している。

調査会社のREPORTOCEANが今年9月28日に発行したレポートによれば、世界のライドシェアリング市場は2020年には890億5,000万ドル(約9兆9,000億円)と推測され、2021年から2027年において20.21%の成長率になる見込みだという。
日本では見知らぬ他人を送迎すると「二種免許が必要なのではないか」という懸念や、タクシー業界から「白タクではないのか」といった猛反発を受け、ライドシェアはあくまで災害時の移動やボランティアによる互助サービス、また特区に限り実施主体が自治体やNPO法人で、運転者が二種免許または大臣認定講習を必要としている場合であれば、実費の範囲内で対価を収受できるものとしている。
つまり、このままでは日本では海外のようにライドシェアを普及させることは難しい。
1人1台の車社会において、自家用車の代替手段となる鉄道やバス、タクシーなどを提供する事業は採算が取れないことで撤退している例は少なくない。それであればと海外で生み出された自家用車を利用したライドシェアの登場かと言ったら規制の網にかかり使えない。こんな状況で危ないから高齢者は免許を返納せよと言っても、「では、どうやって生活すればいいのか」という質問が返ってくるだけだ。