韓国を語る上で欠かせない「兵役」。最近では、BTSの兵役はあるのかないのか、あるならいつなのか、といったことが話題にのぼる。そんな中、政府までも敏感に反応するドラマが話題になっている。韓国の軍隊の体罰やいじめなどをリアルに描いていると言われるNetflixで配信されている『D.P. -脱走兵追跡官-』だ。

前編「BTSは? ヒョンビンの実際は? 韓国人YouTuberが解説、韓国の兵役事情」では、忖度なしの発言が人気の『韓国人YouTuber JIN(仁)』さんが、自らの経験も含め、注目のアーティストたちの例を挙げて兵役の基本情報を教えてくれた。後編では、ドラマをより深く知るために知っておきたい韓国の軍関連の情報をお伝えする。

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ドラマで描かれた体罰やいじめは、軍隊のリアル?

韓国には、軍人への娯楽を提供する目的と一般の人たちへの広報的な目的のメディアとして『国防TV』という動画チャンネルがあります。兵役中の人気俳優や歌手が出演する動画も配信しています。先日、その『国防TV』が『D.P. -脱走兵追跡官-』を取り上げ、炎上しました。その理由は、出演者が「実際の軍隊はもっと幸せだし、何も危ないことはない。今はすごくいいところですよ」と、軍隊を美化するコメントをしてしまったから。

「そうじゃないことはあなたがたが一番よく知っているのに、なぜ嘘をつくのか!?」とバッシングを受け、『国防TV』側は動画を削除。けれど削除したことが裏目に出て、「やっぱりドラマで描かれていることが軍隊のリアルな姿なんだね」と逆にドラマの信憑性を高める結果になってしまいました。

『D.P. -脱走兵追跡官-』の撮影セットでポーズをとる主演のチョン・へイン。彼はすでに兵役済で、過去の経験が演技にも生かされたという。写真/チョン・へイン公式Instagram(holyhaein)より

私自身、このドラマに出てくる体罰をすべて経験したわけではないですが、あの描写はだいたい合っています。そして、以前よりマシになったとはいえ、体罰は今でもあります。幹部は「ない」と言うでしょうが、彼らは下っ端の兵士とは一緒に生活しないのだからわかるはずもありません。絶対に、何かしらの形でいじめは存在します

先輩に殴られた兵士は、その時は「自分は暴力をふるう側にはなるまい」と思ったとしても、軍隊という閉鎖的な空間で2年間のうち1年間殴られ続けたら、後輩ができた時にやっぱり同じことをやってしまうんですね。とても残念なことですが……。また、自分だけが体罰に加わらずにいると、「なぜお前はしないんだ?」と逆にターゲットにされるので、仕方なく殴るというケースもあるでしょう。ドラマにもそういうシーンがありました。いわゆる「いじめ」の構図と同じです。これは本気で無くすべき悪しき習慣です。

あともうひとつ、韓国はつい最近まで戦争をしていた国で、今も北朝鮮とは緊張状態にあります。そのため、想像以上にスパイも多いため、体罰には「自分たちのしきたりに対応できる人間なのか、そうではない人間かを判別するため」という目的もあるのかなと思います。

実際に、『D.P. -脱走兵追跡官-』は、2014年に起きた「江原道高城郡兵長銃乱射事件」がモチーフになっていると言われています。この事件は、22歳の兵長がひどいいじめを機に、同僚5名を射殺、7名を負傷させて逃走し、自殺未遂をしたという衝撃の事件でした。この事件の前には、入隊直後の20歳の一等兵がいじめによる暴行で死亡する「漣川後任兵暴行致死事件」という事件も発覚し、2014年は韓国の軍隊内のいじめや体罰が浮き彫りになった年でもあったのです。

また、ドラマ公開前の2021年6月にも、海軍で兵役中だった21歳の一等兵が集団いじめを苦に自殺したニュースが話題になったばかりでした。7年経っても何も変わっていないという思いも含め、このドラマは韓国国内で、当初『イカゲーム』以上に話題を集めていたのです。

『太陽の末裔』『ヴィンチェンツォ 』などで人気の俳優のソン・ジュンギ。江原道高城郡兵長銃乱射事件は当時彼が所属していた部隊で発生。当時、彼の安否を心配するファンも多かった。写真は2013年8月入隊時のときのもの。photo/Getty Images