国民の血税を食い物にする「幽霊病床」はなぜ生まれたのか?

日本のコロナ対策の本質的問題
鈴木 亘 プロフィール

骨抜きにされた感染症法改正 

しかしながら、さすがに今回のコロナ禍では、協力要請だけでよいのかという議論が国会でも行われ、2021年2月に感染症法の改正が行われています。

もっとも、改正に対する医療界の反発は大きく、結局、行政命令まで踏み込むことができませんでした。政治的妥協の産物として、民間病院に対する病床確保を、これまでの「要請」に加えて「勧告」できることとし(第16条の2・2項)、勧告に従わない場合に病院名を公表できる罰則が追加されました(同3項)。

しかし、容易に想像できるように、この程度では民間病院が本気で病床確保を行うとは思われません。しかも、改正法に基づいた要請は、これまで奈良県や大阪府、札幌市などで行われましたが、「伝家の宝刀」である勧告や病院名公表は、いまだに一度も行われていません。

こうした中、第5波の最中の2021年8月には、厚生労働大臣と東京都知事が連名で、東京都内の全医療機関に対してコロナ病床確保の要請を出し、いよいよ本格的に改正法を使うのかと注目を浴びました。要請に先立って、都が各病院に空床実態の調査を行うなど、プレッシャーをかけたのは良かったのですが、結果的に、増加できた病床数は150床に止まりました。東京都全体でたったの150床ですから、メンツ丸つぶれの空振りです。まさに「大山鳴動して鼠一匹」でした。

では問題はどこにあったのかというと、またしても「正当な事由」です。改正感染症法も、正当な事由がなければ勧告を拒否できないという条文になっていますが、厚生労働省が示している正当な事由の中には、⑴医療スタッフや設備・物資が不足していること、⑵現在の入院患者の転院先が確保できないこと、⑶地域における救命救急医療や他の一般診療に支障が生じることが含まれています。

このような幅広い解釈では、全ての病院に正当な事由があることになってしまいます。まさに「骨抜き」で、感染症法をわざわざ改正した意味は、全くありませんでした。

 

金銭的解決方法では効果がなかった 

法律上、行政命令が行使できないため、我が国ではもっぱら「利益誘導」という経済的手段がとられています。すなわち、コロナ患者をみる場合に医療機関に支払われる治療費(診療報酬)を引き上げたり、コロナ病床確保に対する各種補助金を用いて、民間病院にコロナ患者を引き受けさせようとしてきたのです。

例えば、2020年4月には、重症者や中等症患者の診療報酬が2倍に引き上げられました。ただ、この程度の引き上げでは採算がとれないと、医療界から非難の声が上がったため、5月には3倍、9月には中等症以上の患者分が5倍まで引き上げられました。

また、2021年8月末には、厚生労働省が比較的重い中等症患者(中等症 ll)の診療報酬 を、6倍にする方針を決めたと報じられています。まるで「バナナのたたき売り」のようです。こうした「金で解決」というやり方では、どうしても足元を見られてしまいます。

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