国民の血税を食い物にする「幽霊病床」はなぜ生まれたのか?

日本のコロナ対策の本質的問題
医療崩壊の危機に陥る原因として、よく指摘されるのが、 「我が国は民間病院が多いから」というものです。つまり、行政の指示・命令で動く公立・公的病院とは異なり、政府の要請に従わない民間病院が多いので、すぐに医療逼迫が起きるというのです。確かに、我が国の病院の実に7〜8割が民間病院で占められているのは事実ですが、諸外国の状況も踏まえると、公立・公的病院割合の低さと医療崩壊の起こりやすさの間に明らかな関係はなく、むしろ、その民間病院に病床確保の行政命令ができないことに本質的な問題があると、医療経済学を専門とする鈴木亘氏(学習院大学教授)は話します。今回は、コロナ禍における医療崩壊の危機の謎を解き明かした鈴木氏の最新刊医療崩壊 真犯人は誰だ』(講談社現代新書)より、民間病院の割合と医療崩壊の関係に迫った部分を抜粋してお届けします。

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本質的問題は行政命令できないこと

第1波で医療崩壊に直面したニューヨーク市では、当時のアンドリュー・クオモ州知事のリーダーシップにより、民間病院を含めた州内の全病院に対し、最低でも50%以上、病床を増やすよう緊急命令が発令されました。従わない場合には、州がその病院を接収するという強制措置が行われますから各病院も従わざるをえません。

そのほか、大規模なイベント会場などに臨時の「野戦病院」を建てたり、海軍に病院船の派遣を要請したり、州内の医学部生を病院などに派遣する行政命令を出すなどして、わずか3週間ほどの間に9万床のコロナ病床が確保されました。その結果、ニューヨーク州はその後の感染の波で1日1万数千人規模の新規感染者を出しましたが、第1波のように医療崩壊が起きることはありませんでした。

ニューヨークのセントラル・パークに設置された野戦病院の様子(Photo by gettyimages)

もちろん、ドイツやフランスをはじめとするヨーロッパの各国でも、様々な形の行政命令が行われ、たとえ民間病院であってもコロナ病床が確保されています。日本によく似た医療制度を持っている韓国でも、第3波の際には、重症病床を確保するように、大病院に対する行政命令が出されています。

しかしながら、我が国の場合には、これほどの非常時であるにもかかわらず、民間病院に対して行政命令を出す権限が、政府にも都道府県にもありません。民間病院がコロナ患者の受け入れを拒んだ場合、手も足も出ないのです。つまり、本質的な問題は、民間病院の多さというよりは、非常時でも行政命令が出せないという我が国の法制度にあると言えます。

 

協力要請に留まる各種法律 

もう少し詳しく見てゆきましょう。

具体的に、関連する法律としては、医師法、医療法、感染症法、新型インフルエンザ等対策特別措置法の4つがあります。医師法については、よく知られているように、第19条において「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という、いわゆる医師の応召義務が規定されています。

しかし、条文の中にある「正当な事由」という言葉がくせ者で、かなり幅広く解釈できるのが実情です。例えば、今回の場合、コロナ患者を受け入れるための医療スタッフや設備・物資が不足しているということも、十分に正当な事由になり得ます。したがって、医師法でコロナ患者の受け入れ義務を課すことは、実際上、不可能であると考えられています。

一方、医療提供体制を規制する医療法では、どの診療科でどんな患者を受け入れるかについて、各医療機関が独自の判断で決められることになっています。各病院に対して監督権限を持っている都道府県ですら、どの病床をどれぐらい用意しろと病院に指示・命令することはできません。

新型コロナウイルスの患者を受け入れるかどうかを判断する権限はあくまで病院長にあり、行政ができるのは各病院に対する「協力要請」だけなのです。この点は、感染症対策の取り扱いを定めている感染症法(第16条の2)、新型コロナウイルスの対策を定めている新型インフルエンザ等対策特別措置法(第31条)も全く同じで、それぞれ行政は「協力要請」しかできない制度となっていました。

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