なぜ日本は、いとも簡単に医療崩壊の危機に陥ったのか

「世界に冠たる日本の医療」の脆弱性
鈴木 亘 プロフィール

確保病床は全体のわずか4%

その我が国の病床体制について、もう少し詳しく見てゆきましょう。

現在、我が国の医療機関の病床数は、全国で約160万床と言われています。最新の統計(厚生労働省「医療施設調査」〈令和元年度〉)によれば、病院と有床診療所(入院ベッドのある診療所)、歯科診療所の病床数を合計すると、2019年10月時点で162万97床が確認できます(図表1-7)。

もっとも、そのうち、精神病床や結核病床、高齢者の慢性疾患や介護などに対応するための療養病床、有床診療所、歯科診療所は、医療スタッフや設備が手薄なので、新型コロナ患者に対応することは難しいでしょう。したがって、それらを除き、病院の感染症病床(1888)と一般病床(88万7847)を合計した約90万床(88万9735床)が、潜在的にコロナ患者の入院に対応可能な病床数と考えられます。

それに対して、実際にコロナ患者の入院に使われた病床数は、ほんの一握りに過ぎません。例えば、第5波の感染者数のピークに近い2021年8月18日の入院確保病床数は3万7723床、重症者用の確保病床数は5530床です。

全体(88万9735床)に対する割合は、それぞれ4.2%(入院確保病床)と0.6%(重症者用確保病床)という低さです。つまり、医療崩壊の危機に至った直接的な理由は、病床自体は豊富に存在するのに、コロナ病床として利用できる割合が非常に少なかったことにあると言えるでしょう。ごく一部の医療機関、ごく一部の病床が手一杯で頑張っているのに、一方でコロナ患者を受け入れていない医療機関、病床がたくさんあったのです。

 

世界一の病床大国の矛盾

また、既に述べたように、何回も感染の波を経験しているのに、確保病床数をなかなか増やすことができなかったことも、医療逼迫の直接的な理由と言えます。図表1-2を改めてみると、入院確保病床数は、統計を取り始めた2020年5月1日の1万6081床から、2021年8月18日の3万7723床まで、一応は倍以上の数にはなっています。

しかし、各種のコロナ患者数に比べて、あまりに増加ペースが緩やかであることは明らかです。また、この確保病床の中には、コロナ患者用に病床を確保するための補助金を受け取りながら、実際には患者を受け入れない、いわゆる「幽霊病床」が存在していることも判明しています。

これほどの有事であるにもかかわらず、なぜ、医療提供体制の総動員体制を作ることができないのでしょうか。そして、その状態が長い間、あまり改善されずにいるのは、一体どうしてなのでしょうか。

以下の各章では、いよいよその原因に迫ってゆきます。世界一の病床大国であるにもかかわらず、その一部しかコロナ病床として利用できず、その後もあまり病床を増やせない事態を招いた真犯人(原因)は一体、誰だったのでしょうか。続きは『医療崩壊 真犯人は誰だ』にてご確認ください。

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