なぜ日本は、いとも簡単に医療崩壊の危機に陥ったのか

「世界に冠たる日本の医療」の脆弱性

コロナ禍が始まる前、我が国の医療は世界の中でも特に充実していると、国民の多くが信じていました。しかし、実際には、世界的にみて桁違いに少ない感染者数や重症者数、死亡者数であるにもかかわらず、我が国の医療体制は、かくも簡単に医療崩壊の危機に直面しました。救急搬送されても、たくさんの病院に受け入れを拒否されたり、入院待機中に自宅で亡くなるコロナ患者が続出したのです。また、新型コロナウイルスが日本に上陸してから、はや2年もの月日が経とうとしているのに、感染拡大のたびに医療逼迫を繰り返す状況に大きな変化が見られていません。その背景に一体何があるのか、その謎に迫ったのが最新刊『医療崩壊 真犯人は誰だ』です。今回は特別に、その第1章「世界一の病床大国で起きた『医療崩壊』」の後半部分を抜粋してお届けします。

日本に医療崩壊は起きたのか

医療崩壊という言葉の定義は必ずしも明確ではありませんが、今回のパンデミックの初期に、中国・武漢市やアメリカ・ニューヨーク市、イタリアなどで起きた状況——つまり、コロナ患者が病院の廊下にまで溢れ、治療もされずにその場で次々と亡くなってゆく状況を指すのであれば、さすがに我が国の中で、そこまでの状態になった地域はなかったと思います。

ただ、「入院の必要がある病状で、保健所などが入院を調整しているにもかかわらず、都道府県が確保した入院病床に入ることができない患者が大勢いること」、あるいは、「その患者が入院することなく、入院待機中に亡くなってしまうこと」を医療崩壊と言うのであれば、第5波までの間に、東京や大阪などの大都市部を中心に、何度かそのような状況が出現しています。

また、病院の集中治療室や入院病床をコロナ患者が占めることにより、コロナ以外の患者の救急搬送が困難になったり、手術や治療ができないということが広範に生じました。本書では、この状況を「医療崩壊の危機」、もしくは、医療逼迫と呼ぶことにしたいと思います。

 

世界に比べて桁違いに少ない感染者数 

「はじめに」で述べたように、本書のテーマは、なぜ、我が国で「医療崩壊の危機」が簡単に起きてしまったのか、その謎に迫るというものです。

ところで、そもそも医療崩壊の危機が我が国で起きることのどこが、「謎」なのでしょうか。今となっては医療逼迫が日常茶飯事となり、我々は慣れてしまった気がします。しかし、もともとコロナ禍が起きる前には、我が国の医療提供体制は世界でもトップクラスであり、医療崩壊など、まず起きるわけがないと信じられていました。

具体的に、以下の2つの意味で、我が国が医療崩壊の危機に瀕したことは、にわかには理解しがたい現象と言えます。

まず、第一に、諸外国の感染状況に比べて、我が国は桁違いに感染者数が少ないということです。

菅政権下で内閣官房参与を務めた高橋洋一教授(嘉悦大学)は、諸外国と比べた我が国の感染状況を「さざ波」と表現して「炎上」し、結局、参与を辞任しました。しかし、実は専門家の中には、彼の言う通りだと思っていた人も少なくありません。

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