戦後最大級!沖縄・奄美に大量の軽石をもたらした「大噴火」の正体

同クラスの噴火が陸上で起こったら…?
山本 智之 プロフィール

「黒潮反流」とはなにか

海洋研究開発機構の美山透・主任研究員(海洋物理学)は、「黒潮反流」という海流が、軽石の運び屋になったと指摘する。黒潮反流とはなにか。

次の図は、黒潮とその周辺における海面付近の流れを示したものだ。濃い赤色で示されているのが「黒潮」で、そのまわりの流れは細い黒矢印で描かれている。

【図】黒潮とその周辺の海面付近の流れ(1993〜2020年平均)を示した図黒潮とその周辺の海面付近の流れ(1993〜2020年平均)を示した図。一部が途中で逆方向に流れているのがわかる。赤い×印は福徳岡ノ場の位置(海洋研究開発機構の美山透さん提供)

それら細い黒矢印をよく見ると、北東~東向きに流れる黒潮の一部が、途中で渦を巻くように方向を変えて西向きに流れていることがわかる。これが「黒潮反流」で、黒潮の上流に戻っていくことから「黒潮再循環流」ともよばれる。

黒潮反流は、黒潮の本流のようにはっきりとした流れではなく、ゆっくりとした、弱い流れだ。黒潮のスピードが場所によっては秒速2メートル以上に達するのに対し、黒潮反流は秒速0.3メートル程度だという。

福徳岡ノ場(上図中の赤い×印)の西側では、黒潮反流が沖縄方面へ西向きに流れている。海に浮かぶ大量の軽石は、この流れによって沖縄・奄美地方へ押し流されたとみられる。

スーパーコンピュータが予測する今後

福徳岡ノ場で発生した軽石は、どのようにして沖縄や奄美の海に運ばれ、今後はどう広がるのか──。美山さんはスーパーコンピュータを使ってシミュレーションをおこなった。

スパコン上で、福徳岡ノ場から半径100キロメートルの範囲に軽石に見立てた粒子を1万個ばらまき、その後の行方を追った。その結果、軽石の帯が細長く伸び、10月中旬に沖縄・奄美地方の沿岸に到達するようすが示された。

このシミュレーションでは、いったん海に浮いた軽石は沈まない前提で計算したが、実際に軽石が漂着しはじめた時期とほぼ一致する結果が得られた。

福徳岡ノ場の軽石の拡散シミュレーション。8月14日から11月30日までを計算したもの(海洋研究開発機構提供)

黒潮に乗った軽石は高速で広範囲に拡散する

黒潮反流は、ふたたび黒潮に吸い込まれる流れだ。沖縄・奄美地方の近海に達した軽石も、黒潮に乗って北東に進むとみられる。

美山さんは「今は黒潮が大蛇行しているので、北東に進んだ軽石はいったん南の沖合へ遠ざかるが、その後また北上するだろう。実際に運ばれる軽石の量は、途中で海中に沈む軽石の割合によっても左右されるが、シミュレーション上では11月下旬に静岡県沖に接近する可能性がある」と話す。

強い南風が吹くなどの気象条件がなければ、軽石は日本海側には入らないとみているという。

【図】福徳岡ノ場の軽石の拡散シミュレーションの一部福徳岡ノ場の軽石の拡散シミュレーションの一部。上は10月31日、下は11月30日のもの(海洋研究開発機構提供)

美山さんは「黒潮に乗った軽石は、速いスピードで広範囲に散らばることになる。軽石が船の冷却装置に取り込まれて故障の原因になったり、工場などの取水に影響が出たりする可能性がある。まとまった量の軽石が到達した場合、ブリやマグロなどの養殖にも悪影響が出るおそれがある」と警戒を呼びかける。

同規模の噴火が陸上で起こったら…?

ふだんの暮らしのなかで私たちが思い浮かべる「軽石」といえば、園芸用に使う鉢底の石か、あるいは、風呂場で「あかすり」に使う石といった程度のイメージしかないだろう。

しかし、四方を海に囲まれ、かつ、111もの活火山が密集する日本には、「沿岸への軽石の襲来」という潜在的な災害リスクが存在する。今回の福徳岡ノ場の噴火は、その事実を私たちに突きつけるものだ。

それだけではない。産総研の及川さんは「今回はたまたま海で噴火が起きたが、軽石や火山灰を大量にまき散らす同様の大規模な噴火は、日本列島では陸上でも起こりうる。そのときには、車や電車といった交通手段がマヒするだけでなく、電柱でショートが起きて大規模な停電になったり、上水道の施設が被害を受けて飲み水が確保できなくなったりと、日常生活に計りしれないダメージが出るはずだ。そうした危機についても、きちんと考えておく必要がある」と指摘する。

日本列島で暮らす私たちにとって、地震への備えは常識だが、それに加えて、いつ起きてもおかしくない火山噴火も視野に入れた防災対策が欠かせない。

【写真】沖縄県今帰仁(なきじん)村に漂着した軽石を調査する及川さん沖縄県今帰仁(なきじん)村に漂着した軽石を調査する及川輝樹・主任研究員(産業技術総合研究所地質調査総合センターHPより)

海底火山「福徳岡ノ場」の噴火と軽石の大量漂着は、大自然のもつ力のすさまじさをあらためて示すものです。その一方で、私たち人類もまた、地球を温暖化させ、気候を変えてしまうほどの大きな力をもつようになりました。

温暖化によって海の生態系はその姿を変えつつあり、日本の海でもすでにさまざまな形で異変が現れはじめています。南の海ではサンゴの白化と死滅が相次ぎ、北の海ではサケの漁獲量が減っています。こうした「海の温暖化」の問題は、私たちの食卓に将来、大きな影を落とすおそれがあります。

日本列島をとりまく海とそこに暮らす生き物たちに温暖化はどんな影響を与え、それは将来、どう変化していくのか──。山本智之さんの最新刊『温暖化で日本の海に何が起こるのか』で詳しく解説されています。ぜひご一読ください。

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