2017年にベストセラーとなった燃え殻のデビュー小説を映画化した『ボクたちはみんな大人になれなかった』(11月5日より劇場公開、Netflixで全世界配信)は、インターネットが普及する前の1995年からコロナ禍の2020年までを一人の男性の目線から描いた物語だ。

洋菓子工場で働く佐藤(森山未來)はアジアの輸入衣料・雑貨店で働くかおり(伊藤沙莉)と雑誌の文通募集欄で知り合う。何度かの手紙のやり取りを経て、初めて原宿で会った日、佐藤は瞬く間に恋に落ちる。“普通”が嫌いで、独自の感性で映画や音楽、アート、ファッションを楽しむかおりは「キミは大丈夫だよ、おもしろいもん」と佐藤を励まし、佐藤にとってかおりは生まれて初めて「自分よりも好きだ」と思える存在に。そして時は流れて2020年。誰もいないコロナ禍の新宿三丁目を歩く佐藤はかつてのアルバイト仲間の七瀬(篠原篤)に出会い、ふと自然消滅してしまったかおりとの25年前の記憶が蘇る――。

主人公・佐藤の21歳から46歳までを演じた森山未來さんに、この20年のコミュニケーションのあり方の変化に感じていること、そしてダンサーと俳優、ふたつの世界が表現にもたらしているものについて聞いた。

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尊敬した過去の相手の言葉は忘れない

――佐藤に対して「普通だね」を連発していたかおりが、幼子を抱えたお母さんになり「普通の人生」を送っていることをFacebookで佐藤は知ります。一方、仕事のポジションが上がり、自宅の様子からは収入も増え、大人として満足した生活を送っているはずの佐藤は「普通」を受け入れられないでいるのが対照的でした。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』より

森山:「好き」とか「嫌い」という気持ちが発生するのは、いずれにせよ、その対象に感情が傾いているということですよね。ところが、「普通」であると物事を受け止めたら、感情はどこにも強く動いていないことになる。なので、「初めて自分より好きになった人」にその言葉を言われたらつらいだろうなぁと。

自分に自信が持てなかった時代に「あなたは面白いから大丈夫」とかおりから伝えられた言葉が佐藤の生きる支えになっています。なので、その後の自分の人生においても「普通」と言われるような生き方をしてしまったら、かおりの感情を強く動かせていないことになってしまう。それは佐藤にとって今でもつらいことなのではないでしょうか。

一方で、かおりが佐藤に対して「普通だね」と言い放ってしまうのは、かおり自身が「普通」から抜け出したいという思いがあったからなのではないかと。一番「普通」というものを恐れていたのはかおりだったはずなのに、それを言われた佐藤のほうがずっと「普通」という言葉を引きずっています。