2021.11.05
# 格差・貧困

増加する「地元志向の若者」は本当に食っていけるのか?

高卒で地元就職のリアルと地域間格差
飯田 一史 プロフィール

――先生の調査によると、商業高校卒で就職した女性たちは「10年後は子育て重視」という考え方が強く、課題は結婚だと思っているそうですが、収入を考えると現実的には結婚しても専業主婦やパートで子育ては難しいのでは?

阿部 調査時点で18歳前後ですから、結婚後の生活設計を具体的にイメージできていないだろうと思います。ただ、ここから何を読み取るか。商業高校生の約半分は大学や専門学校へ進学することを思えば、高卒で地元で就職を選択する人たちは、自分のキャリアへの展望が持てずに子育て志向になっているとも考えられます。あるいは「女性だから子育て」というジェンダー規範が地方に残っている影響もあるかもしれませんが、いずれにしろ問題なしとは言えません。

[PHOTO]iStock
 

「地元に残るか、キャリアを取るか」の二択を脱するために

――女性に限らず、地方で就職するとキャリア展開が都市部で働く場合と比べて制約を受けるのが問題だと先生は指摘されています。地方圏の若者は「地元に残る」か、ステップアップしていける「キャリアを取る」かを迫られ、どちらかが犠牲になる、と。

阿部 「地方に働く場がない」という問題は高度成長期以来ずっと言われてきましたが、今は雇用の「量」だけ見ればかつてよりあります。けれども現在でもキャリア選択の幅が狭く、専門的な仕事などのキャリア展開が難しい点は変わっていません。地方では公務員、教員、地方銀行、福祉・医療関係以外のキャリアを歩もうとすると限界があります。東京生まれであれば地元で暮らし続けて多様なキャリアも展開できる一方、地方ではどちらかひとつしか選べないという格差がある。

――とすると「若者の地元志向の増加」と「現実の労働市場」とのあいだにそもそも矛盾が生じているのでは?

阿部 第三者的には「地方で良い仕事を探すなんて経済合理的じゃない。都会に出ていったほうがいい」と言えるかもしれないですが、人はそれだけでは行動しません。生まれ育ったところに暮らし続けたいと考えることは、経済合理性にかかわらず当然のことです。ですから地域で生きるという選択をする若者を支える雇用政策、地域政策が必要です。厳しい地域ほど政策的に良い雇用機会を用意し、キャリア展開の道を開く、そのための財政支出が重要だと考えます。

たとえば、地方では公務員と学校の先生が安定した仕事であり憧れになっていますが、両者は税金を使っている、つまり公共部門の雇用です。地方圏に魅力ある職業を拡大し、職業選択の幅を広げるには、こうした公共部門・準公共部門である保健医療、福祉、教育、科学、技術、文化の公的財政支出を増やして雇用を作っていくのがひとつのありうる政策です。もちろん民間部門でも、金融機関や福祉以外に安定した仕事が少ないという状況は変えていく必要があります。

――ただ、たとえば建設業者は多くの地方議会と結びついている一方、文化芸術・研究系の議員や、地方政治に対する圧力団体によるロビー活動はまれですよね。どこに訴えていけば実現できますか。

阿部 建設業が政治と結びついて公共事業を進めたことに対しては70年代から「土建国家」と言われて批判も大きいですが、地方は都市部に比べて相対的にインフラ整備が遅れていたことも事実で、「地方でも便利に暮らせるようにしてほしい」という住民のニーズが背景にあった。

90年代頃から地方にも美術館やホールが次々とできて「ハコモノ行政」と批判されることも多いですが、これも「地方でも美術館やコンサートに行きたい」という住民ニーズを吸い上げていった側面があります。

そう考えると、文化や研究的な面に対する公共支出を増やしていくことも、住民がまず声をあげてニーズを見えるかたちにすること、そしてそれを実現させるリーダーの役割が重要です。

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