「加齢・親・実家」…シビアな現実をきっちり描く

劇場版だからといって、特別ドラマチックなエピソードがあるわけではない。
派手でスペクタクルなシーンがあるわけでもない。

劇場版でも、ドラマ版と同じように、ごく普通の生活の中のささいな出来事や、小さな心の揺れとぬくもり。そして、毎日の食事が、あたたかく丁寧に描かれている
大きなスクリーンで観ても、それは、とても心地いい。

「変わらない」と言っても、劇場版では、ドラマ版から数年の時間が流れているようだ。

40代だったシロさんとケンジは、50代に突入。
若見えのシロさんでも加齢が気になるようになり、ケンジは薄毛に悩んでいる。
年老いた親の面倒や、家の処分、家業の問題にも直面する年代だ。
劇場版では、そういったシビアな「現実」も、目を背けずにきっちりと描かれている。

シロさんの「主婦仲間」、佳代子さんには、孫ができた。
子どものいる夫婦であれば、自身の「老い」は同時に子どもの「成長」でもある。
自分が老いてくかわりに次世代が育ち、子どもを産み、「命」は未来へと受け継がれていく。

倹約料理の先生でもある佳代子さん(田中美佐子さん)(c)2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 (c)よしながふみ/講談社
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だが、同性のカップルには、その未来は望めない。

『何食べ』のもう一組の男性カップル、小日向さんと、ジルベールこと井上航。
佳代子さんの孫の話を聞いたジルベールは、自分たちに「できないこと」を嘆き、周囲に当たり散らす(もっとも、ジルベールの場合は、そういうプレイなのかもしれないが)。
一方のケンジは、「誰かの嬉しいことっていうのは、やっぱり嬉しいじゃない」と、幸せそうに微笑む。

他人の幸せを妬むよりも、喜ぶこと
それが、幸せに生きるための「コツ」なのだと、さりげないセリフが胸に染みる。

コミカルなシーンに笑い、癒され、おいしそうな料理にグーグーお腹を鳴らしながらも、『何食べ』は、人生において大切な「真理」を考えさせられる物語でもある。

「愛って何?」
「幸せって何?」

……と。