社会的、文化的に形成された、ジェンダーという概念。心理的な自己認識や置かれた環境によって一人ひとりが抱く問題意識は違います。今回は、「バイアスと向き合う」のテーマを軸に、コラムニストのジェーン・スーさんと社会学者の田中俊之さんに語り合ってもらいました。

●情報は、FRaU2021年8月号発売時点のものです。

ジェーン・スー
1973年生まれ。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティー。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で第31回講談社エッセイ賞受賞。近著は『女のお悩み動物園』『これでもいいのだ』など。パーソナリティーを務める番組にTBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』やPodcast『ジェーン・スーと堀井美香のOVER THE SUN』がある。

田中俊之
1975年生まれ。社会学者。働きすぎ、自殺など、男性だからこその悩み・葛藤を対象とした学問「男性学」を研究。大正大学心理社会学部人間学科准教授。内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員や渋谷区男女平等・多様性推進会議委員も務める。著書に『男子が10代のうちに考えておきたいこと』『中年男ルネッサンス』『男性学の新展開』。

生きづらさの話を男女2つの姓だけで議論するのは違う。
多様性は男と女だけの話ではないですから。(スー)

男女平等が進まない理由は明らか。
本心として関心を持っている人がまだまだ少ない。(
田中)

コラムニストのジェーン・スーさんと男性学を専門とする社会学者の田中俊之さんは、2013年にとある対談で出会って以来、ラジオや書籍でジェンダー問題を語り合ってきた。13年から21年。社会の何が変わり、何が変わらなかったのか。日本のジェンダー意識の現在地や、自分や周囲のジェンダーバイアスと向き合う方法を聞いた。

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スー 田中先生とは、節目節目で対談をさせてもらっていますよね。

田中 最後の対談は2018年、スーさんの著書『私がオバさんになったよ』ですね。久しぶりに読み返しましたが、男女平等に向けての旗振りは強くなったけれど、根本問題はさほど前進していないなと感じました。ただ、19年の#MeToo運動を機に、何を問題視されている分からない人たちも、何かしらの対応を迫られるようになった。SDGsの項目にもジェンダー平等の達成がありますしね。

スー 社会的制裁が加わることで「あの人はいつもああだから」では済まされなくなった。それは数年前との大きな違いですよね。でも、SDGsには在りし日のエコに近いものを感じてしまいます。

田中 言葉を変えて目新しくしているだけで、問題は何ら解決していない。それこそ男女雇用機会均等法から。

スー 1985年から課題は同じだと。

田中 そうです。社会問題というのは、現状を把握し、原因を突き止めて、その原因を除去することでしか進んでいかない。同じ問題にぶち当たっているということは、現状の把握が甘いということ。例えば定番の世論調査に「男は仕事、女は家庭」という考え方への賛否を問う質問がありますが、果たしてあの問いで世の中を測れるのか。現代の日本人がどのようなジェンダー観を持ち、実際どのような行動をしてるかを正しく把握すべき。その上で、なぜ家事育児は女性に偏ってるのか? と原因を探るしかない。

結局はみんな、男女平等は正しいことっぽいから旗を振っているだけで本心では関心がないんじゃないかなと。だってコロナのワクチンは驚くべきスピードで完成したでしょう。人々の行動の変容も早かった。それだけ重要だと捉えているからです。そう考えると、男女平等が進まない理由は明らかですよね。

スー 男女はすでに平等なのに何を言ってるんだ、という考えの人も男女問わずいますからね。不平等でも自分の取り分は変わらないから無関心な人、実現すると自分の取り分が減るから動かない人もいる。道徳的な観点から進めるのには限界がある気はします。

田中 悲しいですが、そうですね。

スー 今回の対談は、依頼をいただいた当初は「男性の生きづらさ」がテーマだったんですよね。でも、その切り口には2つの地雷がある、とお伝えしました。ひとつは、女性が男性から教えを乞うというフォーマットが誤解を生みかねない。もうひとつは、男性の生きづらさと女性の生きづらさは背中合わせ。常にコインの表と裏なので両方話さないと。

当初のテーマは田中先生と私のこれまでの対談を踏まえてのものだったと思いますが、8年前、3年前よりセンシティブなトピックです。女性の生きづらさへの理解が一向に進んでいないので、苛立ちは当時より大きいと思うんです。女性の生きづらさは、男性だけでなく、一部の女性にも伝わっていない。しかもそれが隣近所の話ではなく、国の法律や社会現象として起こっているわけですから。

田中 僕が男性学の本を書き始めた10年程前は「男性の生きづらさ」が論点として新しかった。男にも生きづらさがあるのかと関心を持ってもらい、男性にジェンダー問題の当事者だと認識してもらうことを一度やる必要があったんです。その意味では僕も、男性の生きづらさを発信し続けるのは違うと思っています。

スー それに、生きづらさの話を男女という2つの性だけで議論するのも、もう違いますよね。並行してLGBTQ+の話があるわけで、多様性は男と女だけの話ではないですから。男女の不平等がもう少し早く解決していれば、次のフェーズに進めたのですが、もう同時進行で取り組んでいくしかないですよね。