先日ノーベル賞を受賞した真鍋淑郎博士は、「好奇心が原動力」と語っていた。では好奇心はどのように育まれるのだろうか。教育についても長く取材しているジャーナリストの島沢優子氏が自身の経験と、ノーベル賞受賞者山中伸弥教授と小児脳科学者の成田奈緒子さんとの共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』からの抜粋などにより、好奇心を生む教育とはなにかを考察する。

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島沢優子さん連載「子育てアップデート~子どもを伸ばす親の条件」今までの記事はこちら
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「ま、いっか」でいいんです

すでに成人した息子が小学4年生くらいのころ、私は著述業のほかに教育雑誌の編集もしていた。その誌面で、とある高名な教師の方に読者がわが子と一緒に自分の子育てをチェックしてもらうという企画があった。つまりは三者面談のようなものだ。親子を募集したものの十分に集まらなかったので、私と息子が面談を受けることになった。

この連載でも断片的に書いているが、息子は小さいころから少々変わり者だった。小学校低学年では「立っているほうが気持ちがいい」となかなか席につけず、授業に集中できない。ただ、中学年くらいになると少しずつ落ち着いてきた。そうなれたのも、子どもの脳や特別支援教育に詳しい成田奈緒子さんや、少年サッカー指導の神様と言われている池上正さんら、私が当時何度も取材をしていた専門家の方々のおかげだと思っている。

「目の前の子どもが、こうあってほしいと思うような姿ではないとき、こうしなさい、ああしなさいとすぐに言うのでなく、いったん立ち止まって『今自分がどう動いたら、この子は成長するんかな?』と考えたらいいよ」と池上さん。

親が過剰に心配すると、子どもは『一番自分をわかってくれているはずの人に不安がられているダメな僕』だと感じて自己肯定感が下がるのよ」と成田さん。取材で「完璧な子育てができない。ま、いっかって思っちゃうんですよね」と首をすくめる私に、「それそれ!その、『ま、いっか』っておおらかに構えるのがいいのよ!」と肯定してくれた。

自分の思い通りにならないことは、ある意味で当然でもある Photo by iStock

学校の面談で「この子は痛い目に遭った方がいい」

2人の言葉を咀嚼して自分の子育てを見直すと、何も言わずただ見守ることがベストであることがわかってきた。一呼吸待てば、子どもは動き出す。宿題、上履き磨き、カブトムシの住処をつくる。自分で目覚ましをセットして起きる自立起床も含め、小さな日常をすべて自分で判断してもらった。息子が自ら動くとき、好奇心に満ち溢れ、生き生きした顔つきになることに気づかされた。

そんなときに、冒頭の雑誌の面談があった。息子は初めて会う大人を前に緊張したこともあって、私が教師の質問に答えていると「ねえ、これっていつ終わるの?」などと話しかけてきた。

「この子は一度痛い目に遭ったほうがいいね。親のほうから危機感を持つように仕向けないとあとで大変なことになるよ」

教師の言葉に、私は動揺した。成田さんたちとは、いわば真反対の意見だったからだ。もちろん危機感が行動変容につながる大きな要素であることは理解した。悩みに悩んだ挙句、私は「自己肯定感と好奇心」を優先することにした。息子には雑誌で面談した先生の話は一切伝えなかった。不安だって子ども自身がつかむものだろうと考えた。